東南アジア進出が過剰なブームになりつつある

グローバル

最近の会合や個別ミーティングで感じるのが、日本企業の間で生じている東南アジア進出ブームである。なかでもタイが過剰気味で、数年前にあった中国進出ラッシュを彷彿とさせる。

日本市場がこの先も伸び悩むとみられ、一方で中国のカントリー・リスクの大きさが表面化し、「次は東南アジアだ」ということで一斉に進出を検討する中小製造企業とサービス系企業(各業界では大手)が増えたのである。中国の反日デモ暴動のひどさに驚き、では東南アジアだ、その中で親日的な国はどこかというのでタイが真っ先に挙がるようだ(続いてはインドネシア、ベトナムといったところ)。

特に製造系にとっては既にインフラと産業集積ができているタイは、生産移管先として安心感があるようである。昨年の洪水騒ぎで一旦取りやめや様子見をしていた企業が、今年になって進出を改めて検討しているという側面もあろう。ただしある程度の実力・規模がある製造系は既に進出済なので、今から出てくる製造系企業は下請けの中小企業が大半だ。「親会社(元請)の工場が海外にどんどん出てしまい、このまま国内に残っていても展望が開けない」という消極的な理由での進出が多いとみられる。「みんなで渡れば怖くない」という心理も働いているかも知れない。

こうしたパターンでの進出には幾つか大きなリスクが伴う。①既に進出済の元請は地場の下請けを確保しており、遅れて進出しても仕事を確保できる保証はない、②新工場の立上げのために国内工場の中核人員を投入すると国内工場の操業に支障が生じる、③バンコック郊外の工業団地に通える地域の人たちは既に「奪い合い」状態で、労賃は今後も着実に上がる、④日本との間で原材料や製品の物流を行う必要がある場合、生産リードタイムは一挙に長くなり、機動的な生産は難しい、等々。よくよく進出戦略を考えておかないと、経営を傾かせることになりかねない。

こうした事情は非製造系にも共通する。工業団地のようなインフラが整備されている製造系より、むしろハードルは高い。日本でやっているようなオペレーションがすぐにタイでできるとまではさすがに安易に考えていないはずだが、「とにかく出てみりゃなんとかなる」と安易に進出しようとする企業は後を絶たないようだ。小生はこの1ケ月だけで、「とにかく現地法人を設立したばかりです」という経営者に6人も会った。

現地の社長は経営者本人が兼任していて実務的には息子さんが派遣されていることも多いのだが、特にパートナー探しを行き当たりばったりで行うのでは、とても戦略的とはいえないし、思わぬ怪我を負うことにもつながる。何かというと、現地に巣食うペテン師(地元在住の日本人が窓口になっているケースが多い)の餌食になりやすいのだ。現地に進出したばかりのときは日本人ネットワークの恩恵は有難いものである。そんなときに紹介される「在住ウン十年」の日本人コンサルタントにころりと騙されるケースが後を絶たないのである。

現地でたまたま知り合った人(日本人、タイ人の両パターンがある)からの紹介で提携パートナーを決めるという例は実は少なくない。一部の人から聞くだけで随分の数なので、全体は相当なもののはずである。それが詐欺的なものとしてすぐに表面化する場合もあれば、「被害者予備軍」として例えばJVがうまくいかなくなった段階で法的問題が露呈するものもある。そこまでいかなくとも、そんな安易な方法で最適なパートナーと巡り会う確率はごく小さいことは合理的に考えれば理解していただけるだろう。

安心社会・日本にいる人間からすると理解しがたい行動だろうが、現地で心細い境遇に置かれていると、優しい言葉で(しかも日本語で)親身に相談を受けてくれる人がいると人格まで信じ込んでしまうようである。くれぐれも「自社は大丈夫」と高を括らないで欲しい。「振り込め詐欺」と同様で、被害者は「自分は餌食になるはずがない」と思い込んでいるものだから。

それより、精神的に追い込まれていない進出前の段階から、有用な現地情報を(日本人に閉じないネットワーク経由で)仕入れ、信頼できるパートナーを確保してから現地進出して欲しい。そのための有効な支援をハンズオンでできるところは実は多くないので、よく見定めて欲しい。