日本の誇り「清潔」を支える「清掃のプロ」に感謝しよう

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2月6日(金)にNHKで再放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」、とてもよかったです。2月2日に放送され、好評のため再放送になったのでしょうね。題して「清掃のプロ」スペシャルでした。この番組、小生のお気に入りの一つですが、今回は特によかったです。

2人のプロが紹介されていました。どちらも素敵でしたが、今日はその前半のお一人を取り上げます。

羽田空港は2年連続で「世界一清潔な空港」に選ばれています。その栄光を陰で支えるのは、「清掃日本一」の称号を持つビル清掃のプロ・新津春子さんです。映像が映すその技術はまさに職人技です。

例えば、ステンレス製の水飲み器がちょっとくすんでいるのを見て、彼女は瞬時にどうすべきかを判断します。しかもその難しさも。80種類以上の洗剤を駆使し、あらゆる困難な汚れを素早く落としていくこの人の手に掛ると、まるで新品のような輝きを取り戻すのです。でもその洗剤の選択や汚れ落としの過程を追い掛けていくうちに、その凄さが少しずつ明らかになりました。ステンレスという素材を洗剤の化学反応が傷つけることなく、手早く汚れを落とし、水で洗い流すのです。まさに職人技です。

でも新津さんの真骨頂は、目に見えない汚れをも落とすところにあるといいます。たとえば、トイレで洗った手を乾かす乾燥機。放置しておくと排水溝に雑菌が繁殖し悪臭となるものです。そこで新津さんは、専用ブラシをメーカーと共同で開発、1センチ幅の排水溝を徹底して清掃するのです。

一見きれいに見える床にも目を凝らし、かすかに舞うホコリも絶対に見逃しません。赤ちゃんやアレルギーを持つ人への影響を考えてのことだといいます。それに床を拭く際に、通り掛かる空港利用者(その大部分は旅行者)の通行タイミングを邪魔しないように、自然な感じで待ってやり過ごしています。非常に滑らかで、かつてきぱきしているのです。さすが達人、隙がありません。

使う人のことを考え抜き、手を尽くす新津さん。「やさしい心で、清掃する」という信念を持っているそうです。「心を込めないと、きれいにできない。“どこまでできるか”を常に考えることが、やさしさです」と、口癖のように言うのです。これは師匠に叩きこまれた、プロとしての矜持でしょう。

新津さんの半生は険しい道のりの連続だったようです。生まれは中国の瀋陽。父親は第二次世界大戦のときに旧満州に取り残された日本人残留孤児。中国人の母との間に生まれたのが新津さんです。その境遇のため、幼い頃から「日本人は帰れ」と壮絶ないじめを受けて育ったそうです。

やがて一家は残留孤児帰国制度によって日本に帰国、帰化します。でも日本にきてからも、言葉の不自由な両親はまともな職に就けず、一家は経済的に苦しみます。さらに日本語の不自由な彼女は、今度は「中国人は帰れ」と苛められます。なんと心ない言葉でしょう。異国で艱難を経た同胞の家族を再三にわたって苦しめる、子どもならではの残酷さです。「自分はいったい何なのか」と彼女は悩んだそうです。

差別に苦しみ、人とあまりしゃべらなくてもよいからと就けた仕事は清掃のみだったそうです。そして誰かに存在を認められたくて、朝も夜もひたすら清掃に明け暮れたそうです。つらい日々だったでしょうね。そして職場には「神様」と呼ばれる清掃のプロ・鈴木氏がおり、その人に認められるべく、さらに励んだそうです。でもどれだけ手を掛けて磨き抜いても、鈴木氏は決して褒めてくれなかったそうです。

やがて鈴木氏は新津さんに清掃の技能選手権に参加するよう奨めます。自信を持って挑んだ予選では、しかし2位。何が足らないのだろう。新津さんは自問を繰り返したそうです。鈴木氏にさらに指導を仰ぎ特訓を受けていた時、鈴木氏から何度も「心を込めて掃除しなさい」と諭されたそうです。自身ではそうやっているつもりだった新津さんは、しばらくは納得できなかったそうです。

でも何度も繰り返して考えるうちに、少しずつ分かってきたそうです。そして余裕を持って清掃することの大切さが分かるようになったそうです。

特訓の成果もあり、彼女はその大会で日本一に輝きました。その頃には、心を込めて掃除するという言葉の意味が、本当に分かるようになったといいます。

そして行き交う人々から、「ご苦労様」「きれいですね」と声をかけられるまでになったとき、彼女はようやく気付いたのです。この清掃という仕事こそが、ずっと探していた自らの居場所だということを。

彼女は言います、「清掃は中国でも日本でもまだまだ地位が低い。でも私は職人の仕事だと思っています。ただ清掃するだけじゃない。心を込めて掃除すれば、感謝してくれる人がいるのです」と。

日本にきて26年、清掃を極めようとする新津さんの職人技は、ニッポンの玄関を世界に誇れるものにしてくれているのです。感謝したいです。