日本の司法は「前近代的な状態である」という自覚が足らない

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さる9月26日の再審で無罪判決が出た「袴田事件」。しかも静岡地方裁判所は捜査機関によって証拠がねつ造されたと指摘しました。控訴期限はこの10日です。

判決の後、裁判長は袴田さんの姉のひで子さんに「ものすごく時間がかかっていて、裁判所として本当に申し訳なく思っています」と謝罪しました。経緯と証拠からして、ある意味当然の結論ながら、裁判所としては踏み込んだ言い回しだったと思います。

袴田事件の概要

袴田事件の簡単な経緯

しかしながら、裁判所が謝ったのは「時間が掛かった」という点であり、決して「冤罪に加担した」ことについては謝っていないことは看過してはなりません。

この件に関わった大半の裁判所、特に確定審の地裁・高裁・最高裁判所は証拠をきちんと精査せずに、端から検察の言い分を丸飲みしています。この件に関与しなかった第三者的立場の司法関係者の多くが、確定審の裁判所の判断を疑問視しています(要は「そもそもこんな事件、有罪にするのがおかしい」ということ)。そして再審をすぐに認めなかった判断も同様にいい加減で、罪深いものです。

確かに大半の刑事被告人は実際のところ有罪であり、検察は公判を維持する確信があるからこそ起訴するという実態があり、裁判所は固定観念として「検察が起訴したのだから十中八九はクロ」という心象を抱きがちです。だからこそ日本では有罪率99.9%などという数字が維持され、冤罪事件が繰り返されるのです。

でも、だからといって証拠検討がいい加減では裁判所の存在意義はありません。日本の裁判官は案件処理に追われ、本当に精査すべき事案に十分な時間を掛けることを上層部が奨励しておりませんし、世の常識を知らな過ぎる、論理性に弱い、そもそも「疑わしきは罰せず」という基本から外れがちだという自己認識が全然足りません。


さらに問題なことは、真犯人は逮捕もされておらず野放し状態であり、今となっては再捜査も難しい状態です。というのも当時の捜査陣が「袴田が犯人に違いない」と決めつけて他に真犯人がいる可能性を追求しておらず、そういった方面での証言や物証集めをまったくしていないからです。

日本の警察・検察の問題点としてよく挙げられる「自分たちの仮説(読み筋)に都合のよい証拠ばかり集め、都合の悪い証拠は無視する」というやり方です。これはプロフェッショナルな姿勢からは究極の反対に位置しますし、日本の司法の前近代性の象徴です。本当ならこの点を、裁判所は検察と警察に対し大いに糾弾すべきでした。

本来警察・検察に必要なのは「犯人を取り逃がさないこと」と「冤罪を生み出さないこと」の両方です。今回、警察・検察はこの両方について大きな失敗をし、それを認めないまま途方もない時間を無駄に過ごした訳です。

いえ、それだけではありません。今回の事件では捜査機関(静岡県警のことです)による証拠ねつ造が(「疑惑」を超えて)「断定」された訳です。この事件の経緯や証拠を調べている第三者の大半が同じ心証を持っています。

容疑者が逮捕された後、真犯人やその協力者は追加の証拠を提示する必要性を知らない(もしくは思わない)状況で、第三者が証拠ねつ造を行なったことが明白であり、物理的にそれができたのは静岡県警の人員しかあり得ないからです。

だから検察OBの人が今回の再審判決に対し「検察は抗告すべきだ」と主張する理由として「捜査機関が証拠捏造する動機がない」と言っていますが、本気でそう言っているならその人は世の中の真実を知らない、司法に携わる資格がない愚か者です。

警察官が証拠捏造をする。何とも悪質で、性善説を信じたい人たちをやるせない気持ちにさせる犯罪です(残念ながら犯人は特定できないでしょう)。そして現実に、元または現職の警察官(刑事を含む)が犯罪に手を染めることは少なくありません。今回のように事件関係者たる警察官が証拠捏造をする動機は、「自分が事件を解決して出世したい」という極めて単純なものだと思われます。

こうした捜査機関による証拠の捏造や隠蔽は日本だけでなく、世界じゅうで起きていることです。先進国ではその事実を踏まえた上で、捜査員が証拠の捏造や隠蔽ができないように(つまり性悪説に基づき)相互牽制の仕組みを作り上げております。日本はまだ先進国並みのことができていないのです。

検察はこれ以上罪を重ねないためには、今度こそ控訴を断念して欲しいものです。



今回の冤罪事件=「袴田事件」は日本の司法の前近代性をあぶり出しにしてくれましたが、世間や報道はこれを「例外」と捉えたがるでしょう。でも実際には日本の司法が生み出した冤罪事件は過去にも少なくないとされ、そして今も進行中です。

私が寄付して応援しているイノセンス・プロジェクト・ジャパンは、そうした冤罪事件の解決と解消のために日々活動しているNPO法人です。決して冤罪事件は他人事ではなく、いつあなたやあなたの家族に降りかかってくるか分かりません。是非、こうした活動にも関心を寄せ、できれば寄付してあげてください。