5月31日(土)に放送されたNHKスペシャル「シリーズ日本新生 日本の医療は守れるか?~”2025年問題”の衝撃~」を録画で観ましたが、かなり深刻な内容を含んでいました。
誰もが、いつどんな時でも自由に病院を利用できる日本の医療が今、深刻な危機に直面しています。原因は、団塊の世代が75歳に達する“2025年問題”です。患者が増え、医療費が急増すると予測されているのです。
今、「病院から在宅への転換」など、これまでの日本の医療を見直す、様々な改革が議論されようとしています。一方、財政面の視点ばかりに重きが置かれ、患者や家族が置き去りにされるのではないかと不安視する声があがっています。医療費の伸びを抑えながら、安心できる医療をどう築いていけばよいのか?2025年まで、あと10年余り。10年後に来る問題を解決するにあたり当面何をしなければいけないか。市民のみなさんの不安の声や、住民ぐるみでわが町の医療を守ろうと立ち上がった地域、世界の取り組みなどの例をあげながらこの番組は進みました。
最初に現状の報告として、医療の現場では既に深刻な事態が広がっている様子です。東京・大田区にある大森赤十字病院。救急患者の命を救い、がんや脳の疾患など高度な医療を行うのが役割です。ところがここ数年症状の軽い高齢の患者が増え、外来の窓口には1日800人以上が押し寄せます。診察室を増設し医師を2倍近くに増やしましたが、追いつきません。入院病棟もほぼ満杯。ベッドの9割以上が常に埋まっている状態です。入院した高齢の患者が長く留まるケースが増えているからです。いずれ本来の役割である重症の患者の受け入れも難しくなると危惧されています。
また、現状の解説もされました。例えばお金の問題。後期高齢者の医療費は年間89万円(若い世代の8倍!)。2025年の日本の医療費は54兆円に膨れ上がる、介護と合わせると年金を上回る規模になると予想されているそうです。病院を作るのにもお金が要るけど、国の財政も厳しい。それに少子化の問題で、お医者さんや看護師を増やそうと思っても働く若い世代が減っていく病院を作るのはなかなか難しいのよ、と。
討論会ではイシューの一つとして、皆が軽い病気なのにいきなり大病院に押しかけないようにするため、家庭医を持って欲しいという考えが提起されます。普段接している患者が重い病気に罹った可能性があるとき最初に診断し、どの専門医で診る事がいいのかを決定するのが家庭医です。今の開業医はその役目を担っているはずですが、必ずしも患者側が開業医を信頼できないのが現実です。
団塊の方が真っ先に手を挙げ、心房細動にワーファリンでもと適当にされて心不全を起こし、結果的に大病院で手術してもらった経験から、町医者は信用できないという意見を開帳していました。この人、大企業の商社に勤めていたご自分を誇りに思っているのでしょう。街の医院はあてにならない、大病院でしか病気は治せないと言わんばかりでした。でも町医者の治療は間違っていなかったが、仕事を含めた環境の影響で病気がコントロールできなかっただけの可能性もあります。こうした「俺が正しい」と思い込む団塊世代が大病院に集中するから2025年問題が生じるんだということ、全く認識がないようです。
それに実際には、開業医が総合診断を行うという役割分担がうまく行っていないようです。日本の開業医は、専門以外はとても弱い、中途半端な知識しかもっていないというのが実情のようです。つまり開業医になるとゴルフや医者仲間での付き合いに忙しく、総合診断医として機能するほど勉強していないということですね。小生が好きな番組に出てくる「ドクターG」は稀にしかいないようです。
家庭医のレベルを医師会が担保し、納得できる情報開示をせよ、という当然の要求も上がっていました(医師会長が責められていました)が、本当に5年毎の更新制度が、グータラな医師がし切っている医師会で実施できるのか、現実は厳しそうですね。
病院に来る患者さんを制限すべきだという動きも出ているんですね。先の東京大森赤十字病院では、地域の医師とネットワークを結び、病状が安定した患者に自宅近くの医師を紹介。そこに通ってもらう事で病院に来る患者を減らそうとしています。米国のように「すぐ自宅療養」にするよりはずっとマシだと思いますが、これでも「さっさと病院から出て行けって事?」と反発する声があるようです。
でも患者が変わらないと、この問題は自分たちの首を絞めることになるのは確実です。
住民が自らの力で医療の無駄を減らそうと取り組んでいる町の例が紹介されていました。7年前、地元の病院から小児科が無くなるかもしれないという危機に直面しました。「いつでも診てもらえて当たり前」という意識から真夜中でも病院に押しかけるコンビニ受診が横行。小児科の医師は連日ほとんど徹夜で次の日の診察に臨むという状況に追い込まれました。そしてついに「もう辞めたい」と訴えたのです。医師がいなくなるかもしれない。
母親たちは自分たちが意識を変えない限り問題は解決しない事に気付きます。医師の負担を減らすべく、母親たちはコンビニ受診を減らすためのパンフレットを作成。子どもの具合が悪くなった時、すぐに受診する必要があるかどうか自分で判断できるようにしたのです。現在このパンフレットは、市の保健師が、子どもが生まれた全ての家庭に配っています。
どなたかが、「結局医療っていうのは最初から限られた資源しかないんですよ。どういう形でシェアするかっていう議論にならないと、最初からみんなが思いどおりの医療を受けられる事はどこでも絶対無理なんですよね」と仰っていましたが、その通りだと思います。
山本雄士医師が、「みんなが医療への納得感を共有する事、みんなで意識の統一をする事が大事」と言っていました。その通りです。誰かに押し付ければいいという持続性のない政策、アリバイ造りばかり気にして反省しない官僚ばかりではダメでしょう。そしてこれだけ日本の医療が心配だと言っているのに自分の意見を通そうとする団塊の世代。この人達が変わってくれないと難しいでしょう。