新NISAをきっかけに高齢者がカモにならないために

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新NISA制度は若い人でも50~60代の引退間際の人でも、もちろん働き盛りの人にとっても、賢く使えば資産形成に役立つ、とてもいい制度です(日本政府にしては珍しいことです)。それだけに世の中で注目を集めています。近所の本屋の書棚を眺めると、新NISAに関する入門本の多いこと!勉強し始めている人が実に多いことが感じられます。

私のブログ/メルマガは相対的に若手から働き盛りの人が多数派ですが、ここでは高齢者の株式初心者が金融機関のカモにならないように、というお話をお伝えします。お父さん・お母さんが新NISAをきっかけに株式投資を始めようとしていたら、是非「気をつけてね」と伝えてあげてください。

まず、新NISAをきっかけに株式投資を始めようとしていたら口座を開設しますね。その際、普段使っているからといって、銀行の株式投資用口座を開設しようとしていたら、ストップしてあげてください。一旦決めてしまうと次の年度まで変更できませんからね。

高齢者は銀行に対する信頼感をいまだに持っています。私だって60代ですが、私個人は同窓に金融機関出身者がいっぱいおり、金融機関の体質・行動体系も今の経営状況もよく分かっています。なので全然信用していません。でも世の中の多くの高齢者はそういうことに全く無知で、間違った信頼感を持っています。

銀行で株式投資用口座を開設すると何が起きるか。銀行の若い担当者が他の家族のいない時間を狙って何度も自宅に立ち寄り、親切っぽく色々と教えてくれます。そして信用させられた上で、大して儲からない投資信託を定期的に売り買いさせられ、資産形成どころか虎の子を減らすだけです。

しかも「大して儲からない投資信託」の選び方もずる賢いことに、例えば、投資に疎い高齢者が好みがちな「毎月分配」方式のものを選ばせるのです。口座にいくばくかの分配金が毎月入るので、あたかも儲かっているかのごとく見せることができるのです(投資信託商品の本体価格は大きく値下がりしているかも知れません!)。

そして株式投資に素人でもそこそこのおカネを持っている高齢者だと、最初に少し「儲かった」気分になると、「次はもう少しまとまった金額を投資しませんか」という誘いに乗りやすいのです。こうなってくると詐欺と同じ手口だということにお気づきでしょうか。そう、金融機関というのは詐欺の手口をよく研究しているのです。そして高齢者はいったん信じた相手には簡単に騙されやすいのです。

まとまった金額を投資する際に高齢投資家がやりたがるNG行動の一つが、「ハイリスク・ハイリターン」指向の投資信託商品(またはその組み合わせパッケージ)を買うことです(もちろん、投資信託どころか単独株式への投資も素人には無茶です)。「自分の投資家人生はそう長くない。早いとこ稼いで老後の資産を確保しなきゃ」と焦ってしまうのです。

でもこの認識は間違いで、今の平均年齢を考えると、50~60代でも実際の資産運用期間は20年以上ある訳なので、焦る必要はありません。むしろ焦る気持ちが×です。若い人なら取り返す時間が十分あるので、リスクを取る選択肢は必ずしも間違いではありませんが、高齢者の場合には絶対NGです。精々「ミドルリスク・ミドルリターン」が関の山で、本人と資産の性格によっては「ローリスク・ローリターン」で十分結構なのです(銀行預金よりはずっとマシ)。

高齢投資家が陥りやすいNG行動のもう一つが、銀行の担当者の言うがままに、まずは「アクティブ型」の投資信託を買わされ、やがてとても理解できない「仕組み債」(先物取引などのデリバディブ=金融派生商品を組み込んだ複雑な設計の債券)を買わされてしまうことです。

銀行の担当者がなぜこうした商品を売りたがるかというと、銀行に入る手数料が高いから、つまり銀行が確実に儲かるからです。金利差で儲けられなくなった銀行は随分と前から手数料ビジネスにシフトしており、まずは「アクティブ型」の投資信託を売り、次に債権を組み合わせた複合的な投資信託を売り、さらに仕組み債を巧みに組み込んだ複合金融商品を売ろうとしているのです。

でも仕組み債はハイリスクかつアンフェアな金融商品で、投資家が儲かる時は少ししか儲からず、損する時には大きく価値が棄損するのです。でもそうしたリスクについて売る側の担当者はほとんど説明しません(仕組みを理解していないので、できもしません)。お年寄りが読めないほど小さな文字で書いてある「重要事項説明書」を他のチラシと一緒に渡して(なるべく注意を引かないように)、「暇な時に読んでね」と言うだけです。

昨年、千葉銀行・ちばぎん証券・武蔵野銀行などに行政処分が命令されましたが、日本の都銀や地銀はこうした危なっかしい商売を昔から続けているのです。ご存じでした?

だからこそ、開設するなら銀行の株式投資信託用口座なんかでなく、色々なインデックス投資信託を選べる証券会社の口座、できれば自宅に売り込みが来ないネット証券の口座が望ましいのです(ただし「ネット」というだけで尻込みする高齢者は少なくないので、その場合には皆さんが使い方を教えてあげるのがいいですね)。そして自分でしっかりと勉強してから投資するよう、強く伝えてください。

あと、ご存じかも知れませんが、投資信託には大きく分けて「インデックス型」と「アクティブ型」の2種類あります。前者は株式市場と同じパフォーマンス(成果)を目指すもので、手数料は安いものです。それに対し後者は、証券会社のエリートたちが研究に研究を重ねて、もっと高いパフォーマンスを狙って運用するもので、手数料は高いです。

ここで重要な事実を一つ。実はどの国・市場においても、「アクティブ型」の投資信託の(中期以上にわたる)平均パフォーマンスは、「インデックス型」のそれに比べて大きく劣ることが統計的に実証されています。つまり「アクティブ型」の信者になるよりも、「インデックス型」でシビアに手数料(買う時と売るときの両方を考えて)が最も安いものを選ぶほうが圧倒的に賢明だということです。