新規事業における素朴な疑問 (7) 向かないタイプをアサインしがち

ビジネスモデル

あなたは営業部門の責任者だ。来年の人事異動に向けて企画部門から、「新規事業の開発・推進の担当者を営業部門からどうしても1人は出してくれ」と言ってきている。本音は誰も出したくないが、社長の肝いりなので断るわけにはいかない。迷った挙句、「分析もよくできて優秀なはずだが、お客からは今一つ好かれず、数字が伸び悩んでいる」A君の顔が浮かんだ…。

あなたが送り出す側でも受け入れる側でも、A君を新規事業担当者にすることには慎重になって欲しい。しかし何故か、こういう人を好んで新規事業担当者にしたがる会社も決して少なくない。

小生のように数十ケースの新規事業をサポートしてきた(だけでなく自らも推進責任者になってきた)人間や、新規事業担当役員として数多くの新規事業に関わった人たちなら、共通認識として「こういうタイプの人は新規事業担当としては向かない」という物差しがあるはずだ。より詳しく人となりを知る必要があるが、A君はそれに当てはまる可能性がある。

「新規事業担当者に向かない」人の典型的特徴を幾つか挙げてみよう。

1. 口達者で資料作りもうまい

少なくとも頭は悪くないし、スキルもある。一見、新事業の企画には向いているではないか、とお思いになるかも知れない。しかしながらその中身が問題である。

自分の頭で考えた内容なのか、どこかで読んだことをさも自分で考えたように話しているだけなのか、よく吟味して欲しい。例えば新規事業の成功例を沢山知っていることが実際に役立つことは多くない。むしろ自分の頭で考える習慣が根付いていることが重要だ。

資料作りも同じだ。そこらじゅうのウェブサイトからコピペし、多色の図表を使って最初から綺麗な資料を作ってくる担当者は少なくないが、中身の貧弱さをごまかそうとする下心が隠れているかも知れない。新規事業を企画するためヒアリングしようとする場合、むしろ資料はシンプルすぎるくらいでいい。色々と市場関係者に教えを乞ううちに中身は充実してくるはずだ。

2.言い訳がうまい
3.要領がよい

少々きつい表現になって恐縮だが、人との関わり方でその人の価値観がかなり滲み出るものだと小生は考えている。1のスキルがあって2~3の特徴が揃っている人には、用心したほうがよい。

机上で考えていたロジックと現実が違うことが見えてきても、またはミスをしていたのが判明しても、こうした人の場合、素直に認めずに何とかこじつけの理屈を考え出してしまい、その場を取り繕うのがうまい。手柄は自分、ミスは人のせいにしがちだ。社内の実力者に取り入ることには鼻が利くが、得をしないことには汗をかこうとはしない。言ってしまえば、彼らは自分が大好きで、利己的な性格なのだ。

しかし新規事業の場合、仮説と現実にギャップがないはずがない。相手としても、協力しても実を結ぶ保証はない。いちいち言い訳をするような態度では、市場の真実に近づけないばかりでなく、社内でさえ誰も相手にしたくなくなる。優秀なのに営業先であまり好かれない人というのは、その利己的な価値観が肌感覚で相手に伝わっている可能性が高い。

間違っていたら素直に謝り、他人のせいには決してしないことが新規事業担当者として最低限の条件だ。こうした素の人間性を信頼されてこそ、見返りの保証がなくとも協力してもらえる。自ら汗をかくことをいとわず相手の懐に入っていくことが、結局は本音を聞き出す近道となる。

4.目の前にある答(らしきもの)に飛びつく

これは物事に対する考え方であり、仮説-検証に対する態度である。「新規事業に向かない」人は、ウサギとカメの寓話でいえばウサギのタイプである。

有名校を卒業したことを自慢する人にありがちだが、新規事業にも「絶対的正解がある」と漠然と信じているためか、往々にして権威がある人(学者、著名な経済評論家など)が「画期的な技術だ」「これが流行る」などと言っているのを盲目的に信じて、それに飛びついてしまう。ましてや「儲かるらしい」といった目先の利益がちらつくと、矢も楯もたまらない。「これが答だ」とばかりに自分なりの結論に飛びついてしまう。

そのため、自分の立てている仮説は何を前提にしているのか、何を検証すべきなのかを考えることをすっ飛ばして、実現のための対応策だけを考えようとする。その方向性に合わない証言や事実が出てきても、得意のこじつけ論理で粉砕してしまう。それで事業を実行する段になって「想定外」の事態が噴出することになると、会社としては痛手が大きい。

「新規事業に向く」人というのは、ウサギとカメの寓話でいえばカメである。どんな権威のある人の意見でも批判的な目で受け取り、自分なりに理解すべく咀嚼しようとする。本質的な意味合いは何か、根源的に顧客にとっての価値につながるのか、を自問自答する。安易な答が道端に転がっているわけではないと分かっているため、市場関係者へのヒアリングなどにより仮説検証-再構築を地道に繰り返し、よりよい方向を見出そうとする。

ウサギの目にはまどろっこしいように映るが、常に着実に前進するので、結局はこれが早道なのだ。