教育虐待まで行き着いた「学歴信仰」という勘違い

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ABEMAの『For Japan -日本を経営せよ』という討論番組に出演することが決まって、最初に予定されていた4月のテーマが「教育」でした。

実際には私は収録を欠席しましたが、その4月放映分に向けて番組関係者が色々と検討し、私を含む出席予定者は色々と「日本の教育」の問題を考えたはずです。

その中で改めて知ったのが「教育虐待」という言葉です。かつては、「教育ママ」「スパルタ教育」などの言葉で語られてきたものです。でも実態としてはそんな生易しいものではないことを、しかも日本と韓国ではそうした歪んだ家庭・学校の環境がごく普通にあることを、NHKの番組『クローズアップ現代』で、専門家が指摘していました

それは時に悲劇を生むほどなのです。この回の番組では、そうした教育虐待が生んだ、やるせない事件の顛末を伝えてくれました(詳細は先の番組のリンクから追ってください)。

この佐賀での事件には我が家は「なんで?」と衝撃を受けました。九州大学の1年生だった長男が、父親の教育を巡る虐待への報復として、ナイフで両親を殺害したのです。先月、2審の判決で懲役24年が言い渡されています。

裁判では、長男の心理鑑定を行った専門家が、背景に父親の学歴コンプレックスと教育虐待があったと指摘しました。いわく「「子どもの人生がどうのこうのというよりも、自分のために、レベルの高い大学に行かせたい。…自分の満足のために」。「典型的な教育虐待だ」と。

それほどひどい虐待が幼い頃から大学まで続いたのです。長男は父親の期待に応えて九州大学へ進学を果たしますが、大学進学後も過干渉は続き、大学に入って1年が経とうとしていた2023年3月9日。長男は、父親と、止めに入った母親を殺害したのです。

聞けば聞くほど「本当の被害者は誰なのか?」と心を痛めずにはおれません。懲役24年って、この長男の今までの人生は父親に奪われ、これから同じだけの期間を国家に奪われるのです(もちろん、両親殺しが重罪であることは分かっていますが)。

父親の身勝手で独りよがりな思い込みと虐待がこの事件の直接・根本的な原因ではありますが、日本社会に根強くはびこる学歴信仰がそれを増長させたのも真実でしょう。でも「いい大学に入ればいい就職ができ、それが勝ち組人生につながる」なんていう話、今どき本当にありますか?

確かに(我々の時代には露骨にありましたが)有名大学出だと就職時に多少有利に働く傾向は今でも残っているかも知れません。少なくとも就職の面接時に厳しい質問をされないので、へまをしなければ人気企業にも就職しやすいかも知れません。

でもそうした人気企業に就職することが当人にとって本当に望ましいことかどうかは当人にしか、しかも後々になってみないと分かりません。現実には人気企業であればあるほど秀才的な人間も集まってくるので、同期間の競争は激しく、比べられるレベルも厳しいものになります。そして職場との相性次第で、人は幸せにも不幸にもなり得ます。

それに受験勉強をやり過ぎた若者の脳は柔軟性に欠ける傾向があり、私自身の経験から言っても実務ではあまり使えないことも多いのです。

外資コンサル会社で先輩のディレクターが面接して入社させた一橋の後輩がまったく使えなかった反面、逆に先輩方が学歴を理由に落そうとした候補者(大学名は覚えていません)に私が面接して頭の回転の良さを気に入り入社させたら、すごく活躍してくれました。

いずれ日韓社会の「学歴信仰」も段々とすたれ、本当の地頭のよさとコミュニケーション能力こそが大事だという事実に、多くの人が気づく時期が遠からずやってくることを願っています。

さて先週にもご案内しましたが、『For Japan -日本を経営せよ』は今週金曜にも放映されます。 是非、ご試聴ください。https://abema.tv/video/title/221-273

#6 2024 年5⽉10⽇(⾦) 21: 30-22:00