小さな島の時計再生職人の意地

BPM

6月8日にNHKで再放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」は「時計に命、意地の指先」でした。元々好きな番組でしたが、今回は特に好きな内容でした。フィーチャーされたのは時計職人・松浦敬一氏。

松浦氏が居を構えるのは、瀬戸内海に浮かぶ広島県の大崎下島。小さな島の時計屋には、全国から壊れた時計が舞い込んできます。高級腕時計からキャラクターウォッチ、大昔の掛け時計まで、年間300個も。メーカーや他の時計屋がさじを投げた時計ばかりです。松浦氏は他の職人が避けて通る困難な仕事をあえて引き受けることを信条としてきたのです。

時間をかけて考え続けることで、別の時計の部品を代わりに使うなど、直すためのアイデアが思い浮かぶことがあるのだと松浦氏は言います。そして、しんどい方へ進めば、他の職人に諦められた時計でも救うことができると信じているのです。

松浦氏は言う。「しんどいことはみんな逃げようとするから。たいぎい(つらい)からね。それを可能にするには、どうしてもしんどい方へいかんと。何でもしんどい方へ考えた方がええ案も浮かぶこともあるし。プラスにはなる」と。

松浦氏が大切にしている信念があります。それは「どんな時計でも、常に最善を尽くす」ということ。松浦氏は言います。「一つ一つの時計に、抜け目ないように、誠心誠意尽くす。最高のものに持って行きたいからね。最善を尽くして、動くものにして戻したい気持ちが一番強いです」と。

松浦氏が戦っているのは、ミクロの世界です。1ミリにも満たない部品を正確に、かつ緻密なバランスで組み上げなければならないのです。しかも、古い時計の部品は替えがきかないものばかりです。そのため、松浦氏には極度の集中力が求められます。

修理の現場において、松浦氏は常に最高の技術と集中力を発揮できるように、努めています。番組の中でも、本当に難しい修理の際には、ビデオカメラを持つスタッフが出す微かな音さえ嫌って遠ざけていました。

実は、客の修理の現場にカメラが入ったのは、今回が初めて。カメラが入ることで、松浦氏の集中力がそがれ、世界に二つとない客の時計に、もしものことがあってはならないという配慮からです。今回は、足音も立てないという条件で、特別に許可されたとのことです。

松浦氏は修理に入る前に、必ず依頼者から送られてきた手紙を丹念に読み込みます。持ち主はどんな職業でどんな使い方をしてきたのか。いつ頃、誰からもらったどんな記念の時計なのか。そうした依頼者の情報や思いを知ることが、不具合の特定など修理に役立つと考えているのです。そして、手紙だけでは分からないことがあれば、電話をして確認します。こんな時計屋、確かに滅多にいませんよね。

松浦氏は言います。「私は時計そのものよりは持ってくる人の依頼者の気持ちを一番大事にするんですよ。そうすると、直すのも力が入る。それが応援してくれる」と。持ち主を想像し、持ち主の思いを知ることが、松浦氏の原動力となっているのです。

凄く分かります。小生もプロジェクトの始まりにおいて、責任者である経営者の方から直接に危機感や改革の思いを聴き、そのやる気に触発されないと力が湧きません。職人の感覚や気概というのは、同じようなものなのです。