専門家面するために専門用語を多用する愚かさ

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弊社の仕事のパターンの一つに、クライアント企業の代わりにプロフェッショナル会社のメンバーと相対してタスクやプロジェクトを仕切ることが挙げられます。具体的にはどういうものかというと、次のようなパターンが典型です。

専門プロフェッショナル企業に対し特定の専門領域の仕事(アサイメントと呼んだりします)をお願いするにあたって、クライアント企業がどんなことをしたいのか、何が課題での専門プロフェッショナル企業が持つスキルやソリューション商品・サービスをどう使えると考えているのかを説明し、出てきた提案と見積の妥当性を精査する、といった流れです。

いわばクライアント企業の利用・企画部門の代理人であり、時には調達部門とつなぐ場合もあります。もしくは新規事業の検討の過程で第三者企業のサービス・商品を使うかどうかを検討するという役回りも日常茶飯事です。

それ以外にも最近の例で言えば、提携候補を提案してきた投資会社の話を精査し、その話に乗るべきか、どういうプロセスで検討すべきか、といったことを投資会社とクライアント企業の検討チームの仲立ちをしながらアドバイスをする、といった場面がありました。

その際に直面したのが、その投資会社の提案資料の分かりにくさと用語の使い方の不親切さでした。全体としても話のポイントが曖昧で、いったい誰に向けて何を言いたいのかが混乱している文書でしたが、それ以上に引っ掛かったのはいちいち不必要な専門用語を多用していることでした。例えば「工数」といえば大概のビジネスパーソンだったら理解できるのに、わざわざ「FTE」と読んだりするのです。

ミーティングの中で「これは工数のことですよね?」と尋ねると「そうです」と答えるので、「なぜ誰でも分かる『工数』と表現しないのですか?」と質問すると、「そこですか」と言いながら「特に理由はありません」という話でした。要は、恰好つけたかったようです。まぁ若い方だったので、力んでいたのでしょうね。

また、最近の別の機会でしたが、やはりクライアントのプロジェクトに参加している広告会社が「『コンバージョン目的』から『エンゲージメント目的』に切り替えたことで…」といった説明をしてくるので、私は「ちょっと待ってください。そういう専門用語で曖昧にせずに、ちゃんと説明してください。ここでは『送客』を目的としていたのを『見込み客の共感度を上げる事』を目的に切り替えた、ということですね」といちいち確認をしました。

多分、そうした「通訳」がないと、同席していたクライアント側のメンバーは何の話をしているのか分からないまま、そのミーティングは進んでしまったでしょう。

そもそもそうした進め方を繰り返していたため、その広告会社のメンバーとクライアントのメンバーとの間でボタンの掛け違いが多発していたのです。それでその上位のマネジメント役を担当している私が、どこでどうコミュニケーションがおかしくなっているのかを見つけるために同席したのが件のミーティングだったのです。

こういったプロフェッショナル企業による、プロフェッショナルらしからぬ『無駄な専門用語の多用』というのは、昔も今もよく起きる間違いです。当人たちは専門家然とした風を装って専門用語を使うのですが、それによって「あの人はさすが専門家だ」などと褒めてくれるクライアントやビジネスパーソンなどいません。よくて「あの人の説明は難しい」であり、悪い場合は「あの人は説明がへたくそだ」とけなされるだけで、尊敬どころか軽蔑に近い受け止め方をされ、何のメリットもありません。

でも専門家になって経験が浅いうちには、こうした専門用語を素人に対し多用するという愚かな行為をやりがちなのも事実です。ある意味、自分の底の浅さや自信のなさを誤魔化すための、浅はかな見栄と突っ張りだと思います(なかには確信犯的に素人をけむに巻くために使う輩も結構いますが、それは別の話)。 昔から大学などのアカデミックな世界ではよく言われていました。「素人学生に難解な説明しかできない講師・助教授は経験と学識不足の二流・三流。だからなかなか出世しない。本当の大家の教授の場合は、玄人相手の論文では専門用語ばかりで難しいけど、学部の学生向けには分かりやすくかみ砕いて説明できるだけの学識と経験、そして言葉使いのセンスがあるものだ」と。よく似た話ですね。