奇跡のホテル再生物語が教える人間の底力

BPM

倒産寸前のホテルを名古屋ナンバーワンの黒字ホテルへと、奇跡の復活をさせた再生物語をテレビ番組で知った。録画してあった「奇跡体験!アンビリバボー」だ(11月19日の放送だということから、随分放ってあったということが分かる)。

主人公は柴田秋雄さん。昭和17年生まれの73才。国鉄の労働組合の役員を長年務め、52才、「ホテルアソシア名古屋ターミナル」に販売促進部次長として転職、後に総務部担当部長となる。

バブルが弾けたあとの日本経済の不況により同ホテルは倒産寸前に追い込まれ、そんなタイミングで柴田さんは「雇用対策室長」、つまりリストラ担当として任命された。150人いる従業員を3分の一の50人に減さなければいけないという汚れ役だ。

ここで彼は予想外の行動に出た。通常のリストラ策とは逆に、優秀な人材ばかり110人を選んで他の企業への転職をサポートしたのだ。これによりホテルに残った人材は、転職する気概も仕事のやる気もなくなっている者ばかりとなったのだ。

ほどなく幹部たちは赤字の責任を取って全員が辞職し、白羽の矢が立った柴田さんは、今度は総支配人に任命される。やる気のない従業員たち、そして信頼関係が崩れた組織。普通は会社が赤字になると経費削減に走るところだが、彼は人を変えてホテルを変えようとしたのだ。

具体的に従業員に対して行った大半は実に地道だ。従業員控室を改装し居心地をよくする。誕生日を盛大に祝う。社員合宿や社員旅行、イベントを企画して、従業員同士の交流や親睦を深めていった。従業員のいいところを見つけてお客様のまえで褒め、表彰する。

ここまでは想像できるが、この後が凄い。従業員のために「アソシアおもしろ学校」という学校を作り、算数・国語・理科などを教える。サークルを作り「劇団アソシア」として1年に1回お客様の前で発表する。会社で心の病になった子がいれば、会社で作った農場へ行き自然と触れ合って会社が直していく。「従業員が会社にいる時間をとにかく楽しくする」 との思いだったそうだ。

柴田さんは「効率化では人は育たない、”会社に来るのが楽しい”と言ってもらえるように従業員もその従業員の家族も大切にしたい、従業員を育てるのが会社だ」という考えだったらしい。同じような言葉を発する経営者は多くいるが、上滑りするケースが大半だ。柴田さんの考えが真実であることはやがて従業員に伝わり、従業員の行動は変わったという。

番組内では幾つかの心温まるエピソードが紹介されており、このホテルが真のホスピタリティを実現した様子が少しではあるが伝わってきた。そしてそれは後に実証されるのだ。

この後、再生過程の同ホテルに試練が訪れる。ホテルとして致命的な食中毒事件を起こしてしまったのだ。普通なら、営業停止、顧客からキャンセルが相次ぎ、経営が危うくなる、そんな事態だ。幸いにも発症者が少なかったため「新聞発表は免れた」と従業員に話したところ、「嘘をつくな、正直に生きろと教えたのは誰だ!発表してくれ」と従業員から言われたのだ。嬉しい反面、柴田さんはとても怖かったろうと思う。

恐々発表したら、今度は“ホテルを守れ”と常連のお客が率先して予約をしてくれ、結果的に営業成績が上がることになったのだ。普段からお客様との信頼関係が出来ているからこその驚き、かつ感動のエピソードだ。

「アソシアホテル名古屋ターミナル」は建て替えのため、2010年9月30日に営業を終了。柴田さんは再び従業員の再就職に尽力した。運営会社も同日付で解散し、同年12月31日付けで清算終了して完全消滅したそうだ。その後、柴田さんは講演活動に集中されていたようだが、番組によると、同ホテルの元従業員は大半が地元のホテルで活躍しており、近々地元で開設される新ホテルに再度スタッフとして集う計画があるそうだ。楽しみにしたい。

それにしても、従業員を使い捨てにする企業が増える中、気力も能力もないとされた従業員をやる気にさせ、会社に来るのが楽しくて仕方ない職場にする、会社として再生させる、なんてまるで夢物語のよう。しかし実際の話だ。

本当に覚悟のある経営者であればここまで人を変えることができ、人を育てることができるということだ。小生のクライアントにも1社だけだが、こういう経営者がいる。彼のために小生はできる限りのことをしたいと考えている。