一つ思い出したので、ゼミOB会の話の続きを。ゼミの性格から総合商社に勤めている先輩・後輩の人がもともと多いのだが、その数人と話をした。
大手総合商社は今や資源投資などでウハウハの状態であるが、皆さん、自分が就職した頃や「商社冬の時代」と呼ばれて悪戦苦闘していた頃には、こんな「我が世の春」が来ることも、こんな投資モデルに口銭商売から切り替わることも想定していなかったと、口を揃えていた。
小生が色々な人達から聞いていた話では、資源を中心とする投資モデルが成功する前に、「冬の時代」には色々な試行錯誤があったそうだ。それこそ新規事業の屍累々といった状態である。実は、小生はADLの経営コンサルタントになった直後に、本を出すためのネタとして「新規事業の失敗事例」を研究していた。その際、商社は格好の研究対象だったのである。
それでゼミOB会でも数名の商社の人に、会社として「過去の失敗体験をどうやって継承しているのか」を聞いてみた。驚いたことに、組織的に継承している例は一つもなかったのである。
当たり前だが、自社の失敗事例ほど教訓を引き出せるものはない。他社の事例でも学べるのは間違いないが、組織体質やその時の経営者の性格や背景事情が分からないため、どれほど自社にとって適合するのかが分からない。それに比べ自社での失敗事例は細かい裏事情まで実感として納得できるので、「前車の轍」を踏まないためのうってつけの道場になる。小生はコンサルタントとして機会あるごとに、クライアント企業での過去の失敗経験を尋ねる。それを次の機会に活かしてもらうためである。
しかし今回改めて分かったのは、優秀な人材が集まっているとされる日本の大手商社でさえ(だからこそ?)、なかなか自分達の失敗経験を組織として学習し、教訓として活かそうという方向に組織力学が働かないということだ。要は、失敗した人達にとっては恥ずべき経験であり、社内で「言いふらされたくない」類の話なのだ。その気持ちを慮って経営者や後輩が、そこから教訓を得る機会を遠慮してしまうのだ。
日本軍の敗戦に至る主たる理由を誤算・ミス以上に学習しない体質に見出し見事に分析した「失敗の本質」という名著がある。結果的に成功した日本の産業・企業にも同じ体質が受け継がれていることを知って、ちょっと背筋が寒くなった。