地方の企業再生にはまともな専門家の手腕が不可欠

ビジネスモデル

7月28日(月)放送のクローズアップ現代(NHK)は「地方経済はよみがえるか~企業再生の模索~」。一部の地域でお手伝いをしようとしているので、関心を持って観ました。

リーマンショック後、政府は金融機関に対し一律に企業の債務の返済を猶予させて倒産を防いできましたが、一方で「ゾンビ企業」を増やしているだけだという強い批判がありました。

その政府も先ごろ方針を転換しました。「成長の主役は地方だ」として企業の新陳代謝を促進、経営基盤の強いところに資源を集約することで地方再生を行うと強調しました。これを受けた地方の金融機関では、成長の芽がある企業には「破綻懸念先」であってもリスクを冒してマネーを投入する動きが出ている一方、延命させてきた企業には転廃業を促す決断も実施中です。強い企業にヒト、モノ、カネを集中させ、経済を立て直す狙いがあります。

番組が採り上げたのは静岡県にある三島信用金庫。地元の企業約1万社と取り引きしています。これまで金融円滑化法によって借金の返済を猶予してきた企業は2,000社余り(多分、平均的な割合です)。この中から成長が見込める企業には融資を、そうでない企業には廃業を勧めています。

信金が活性化を目指しているのは地域の基幹産業である観光。温泉旅館や飲食店などの復活に期待しています。去年(2013年)、富士山が世界遺産に登録。景気が回復の兆しを見せ、観光客が増加に転じた今こそ企業の選別を推し進めるべきだと考えたのです。

どの企業に融資を行うべきか。連日、会議が行われています。この日は、3億円の借金を抱える旅館についてでした。融資を行うか否か。判断基準は企業が将来にわたって利益を生み出せるかどうかです。おかみが計数管理をできるのかが問われていました(怪しそうですが、信金が教えるしかないでしょう)。

一方、融資することを決めた温泉旅館。年間売上の3倍に上る債務を抱えていました。信金はこれまで、貸したお金が回収できない恐れがあるため融資をしてきませんでした。それでも今回融資を決めた理由は、この旅館の将来性にあったといいます。

料理の質が高く、家族やグループ客のリピーターが多い。また、趣のある庭園があり、高級路線を打ち出せば、立ち直る可能性があると考えたのです。その上で、1年以内に事業が軌道に乗らなければ経営者を代えるという厳しい条件を突きつけました。

老朽化していた旅館の空調設備などを整備するため先月(6月)、信金はおよそ1,000万円を融資しました。回収できないおそれもある融資。信金がリスクを負うように変わった背景には、強い危機感があったといいます。

人口減少などの影響によって、この5年で取り引き先は300社も減りました。成長の見込める企業を支援し継続的に取り引きできるように育てなければ、信金の経営自体も危ぶまれるのです。今、信金が融資を検討しているのは80社。一方で、40社には廃業を促しました。

信金は廃業を勧める際、土地や設備を競争力のある会社に売却。従業員も引き継ぐよう手配しました。引き継いだ企業に経営資源が集まり、より強い企業を育てることにつながります。しかし、廃業によって失業した従業員をすべて引き継げるわけではなく、痛みを伴います。融資か、それとも廃業か。地域経済をよみがえらせるための苦渋の選択が続いています。

番組を観て思ったのは、方向性としては正しい、でも企業再生能力が信金にあるのか、という疑問でした。「失われた20年」をもたらした大きな要因として、大半の金融機関が担保主義とリスク回避しか考えなかったのが現実です。本来優秀な人材が集まっているとされるメガバンクでさえ企業の再生ができる人材は稀です(TVドラマの世界は別ですが)。失礼ですが、ましてや信金に企業再生を指導できる人材がそういるとは思えません。

結局、企業経営者の尻を叩くこと以外にはできないのではないかと思えます。その地方の中小企業経営者は近代的な企業経営の基本的な知識を身につけることなくずっとやってきているのです。財務・会計はもとより、事業計画策定、マーケティングやIE、統計分析や知財等々。

かといって地方にはまともな外部の経営コンサルタントもいません。税理士や自称コンサルタントが、怪しげな聞きかじりの理論を振り回して顧問料をふんだくり、市場調査すら手伝えない、というのが実態です。本来なら信金の人間などが手助けするべきところですが、彼らもどっこいどっこいです。たまたま知人に能力のあるアドバイザーがいるか否かで運命が変わってしまうというのはやはり理不尽ではあります。