このところ、「ゆとり世代」と「団塊の世代」間の論争がネット上で繰り広げられて話題になっているのを知った。おじいちゃんと孫の関係に当たるような離れた世代間で、こうした「あんたらが悪い」「いやお前らが不甲斐ない」といったやり取りは醜悪以外の何物でもないと思っていたが、そもそも前提としての「団塊の世代は恵まれていた」というのが怪しくなっている。
4月17日(日)に放送されたNHKスペシャルのシリーズ「老人漂流社会」だ。タイトルは「団塊世代 しのび寄る“老後破産”」。観る前は意外な感じがしたが、年金収入だけでは暮らしていけない“老後破産”の実態が、日本の屋台骨を支えてきた「団塊世代」にも、そのリスクが忍び寄っていることが明らかになってきたのだ。
「団塊世代」は、1947~51年生まれの戦後世代で(我々の人世代先輩にあたる)、およそ1千万人に上る。終身雇用制で、比較的余裕があると思われてきた世代だが、実はバブル崩壊に直面し、所得や退職金は大幅に減少した経緯がある。今や自ら高齢者となったが、長寿化で彼らの親を介護する負担が重くのしかかっているのだ。
その上、就職氷河期に直面した団塊ジュニアは、不安定就労な割合が高く、自立できずに同居している未婚者だけで300万人に上る。つまり「団塊世代」は、親の介護と同時に、子に未だに脛をかじられているケースが意外と多く、(自らを含む)3世代分を養わなければいけない立場になっているというのだ。
そのため年金だけでは、親の介護や、子の支援がままならず、貯蓄を切り崩して生活している世帯が多いというのがこの番組ではいくつかの事例と共に明らかにされた。民間シンクタンクの分析によれば、年金だけで暮らす団塊世代の預金残高は、年間90万円ほど目減りし続けているとのことだ。
若い世代からすれば「貯金があるだけまし」というかも知れないが、老後になって年金と貯金だけで生活を支えることができないというのは途方もなく不安なはずだ。実際、2割程度はもともと貯金も少なく、やがて底をつくことに戦々恐々としている模様だ。
さらに今回、団塊世代が多く居住している首都圏の団地でアンケート調査を行ったところ、団塊世代の半数以上が「生活のために働いている」と答えていることも分かった。「健康」や「社会とのつながり」のためでなく、「生活のために」というのは老人家庭にとっては辛い事実だ。
本番組は団塊世代が直面している老後破産のリスクを、密着ルポとデータ分析で構造的に明らかにしてくれた。しかし「団塊世代」の老後破産をどう食い止められるのか、という問題提起は、結局は「明確な処方箋なし」といわざるを得ない。
そもそも「団塊世代」はボリュームが大きいので、富める者も多くいれば、貧しい者も多くいる。彼らに社会的救済のターゲットを絞るべきという意見は通りえない。まずは団塊ジュニアを含む若者世代に職を与えることから社会を再建するしかないのではないか。それにより社会保障制度が崩壊することを避けるのが最優先だろう。