原発を捨て、地熱発電にシフトしよう

ビジネスモデル

日本での今後の発電方式に関する従来の議論には大いなる偏りと欠落があります。今後も価格上昇が予想される原油に頼った火力発電への極端な依存を続けられないことは明らかです。その依存度を下げる手段として、1)運転コストが安いとされる原発を再稼働させるのか、2)今は割高でも、安全で環境に優しいとされる太陽光発電と風力発電を増やして製造コストを少しでも下げる方向に持っていくのか、の2者択一の議論が横行しています。でも重要かつ有効な選択肢が抜けています。

もちろん、火力発電のための燃料として原油より割安になる可能性の高い天然ガスを、LNGの形で北米などから輸入するという当面の改善策も検討されています。それでも「ジャパン・プレミアム」と呼ばれる割高さが少しは緩和されるだけで、火力発電と中東原油への依存構造は変わりようがありません。

今後、新興国の経済発展がさらに進むことで原油価格はますます上昇します。そんな中、国際的に見ても割高なエネルギー価格を余儀なくされ続けることで、ただでさえ少子高齢化による活力低下に悩む日本の産業全般がますます不利な立場に追い込まれていくことが危惧されます。

また時間軸を長く取り、10数年~20年先まで待てば、メタンハイドレートや波力、水素など、現在開発中の新エネルギー技術も次々に花開くでしょう。でもそれまでの間が問題なのです。

そこで先に挙げた議論に立ち戻ります。本当に1)と2)のいずれかしか選択肢はないのでしょうか。そんなことはありません。第三の道があります。それは火山列島・日本が本来豊富に持つ自然エネルギー、地熱による発電です。地熱によって生成された水蒸気により、発電機に連結された蒸気タービンを回すことによって電力を発生させる、再生可能エネルギーの一種です。

最も望ましいエネルギー政策とは、その土地に豊富な資源をなるべく優先的に使い、社会全体で最も割安なコストになるようにエネルギー・ミックスを組み合わせることです。もちろん、安全が大前提かつ最優先です。日本国内の地熱発電の埋蔵量は多く、世界最大規模の地熱地帯をもつ米国、多くの火山島からなるインドネシアに次ぐ世界3位だそうです(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱山資源機構による。日本を含めたこの3ケ国がダントツで、4位以下は桁違いに小さい)。この国内に豊富に存在するエネルギー資源の活用を真剣に検討することこそ、日本のエネルギー政策の主要な一つになってしかるべきです。

地熱発電のメリットは圧倒的です。まず経済性。火力や原子力と違って燃料いらずで、ほとんどタダ同然の原価。機器の運転に必要な人員も少ない。装置も比較的小さく機構もシンプルなので保守が割安。ましてや原子力の核ゴミのような厄介な廃棄物も出ないので、処理費用も、住民懐柔のための巨額な対策費も不要。次に安全性。原子力と違って、災害やテロによりシステムが制御不能になって地域を崩壊させる危険もない。そして安定性。太陽光や風力と違って、季節・天候・時間に関係なく24時間安定した稼働で高い品質の発電ができる。最後に環境負荷。他の発電方法に比べCO2の排出量が少ない。このように火力・原子力・太陽光・風力などと比べ圧倒的に優れています。

例えば、リーマン・ショックで一旦は国家経済が破たんしたアイスランドでは、政策転換により今や発電は水力と地熱だけでまかなっており、従来頼っていた輸入燃料には全く依存していません。それでも豊富な地熱が余っているので、地域暖房や凍結防止、野菜栽培の温室、露天風呂運営に使われています。これらのエネルギー・コストはほとんどゼロですから、アイスランドという国は急速に生産性と豊かさを取り戻しています。ニュージーランドでも着実に地熱発電設備を増やしており、逆に火力発電所の建設を当面禁止しています(建前としては、2050年までにCO2排出量を1990年レベルに戻すため)。

ではそれだけ元来豊富で有利な地熱発電、実際に日本ではどれほど使われているのでしょうか。発電電力量は2764GWh(2010年度)、何と日本の電力需要のたったの0.3%ほどにしかなりません。要は、全くの「みそっかす」扱いなのです。なぜでしょうか。技術的な問題ではなく、地元一部の抵抗が強いのです(原発に対する国民的反対を無視する政府が、なぜかこうした一部住民の声には非常に神経質です)。地熱発電のデメリットとしてよく挙げられるのが次の2つです。

1つは、適している場所の大半が国立公園内にあるため、発電所を建設すると景観を損ねるという意見です。確かに地元の観光地では新施設の建設にナーバスになることは理解できますが、これは極端な意見です。環境保護団体にも冷静になって欲しいものです。水力発電のために巨大ダムを造るのとはわけが違います。地熱発電所自体が占めるスペースはたかが知れていますし、そこから立ち上る水蒸気は温泉宿のそれと基本的には同じです。地熱発電所の施設デザインを工夫すれば、やがて周囲の風景に溶け込んでしまうことも可能でしょう。

地域に道路や橋を建設することは歓迎し、温泉宿がグロテスクな建物を増設するのを許してきた地元観光業者が、自分達以外も含む広域公共のための施設だと景観上の難癖をつけるのは、首尾一貫性を欠きます。

もう1つのデメリットは、隣接する温泉に影響が出る可能性があるというものです。具体的には、湧出するお湯が減少、もしくは枯渇するという危惧が真っ先に挙げられます。そうした影響が出た実例も国内外であるそうです。さらには、地下深くを掘ることによって地盤に変化を生じさせ崖崩れなどが誘発される、というのもあります。こちらは当事者にとってより切実で、地元政治家や関係官庁が地熱誘致やその許可に積極的になれなかった主な理由だと推察できます。

でも考えて下さい。これらは可能性に過ぎず、必ずそうなるというものではありません。万一危惧する事態が起きたら、電力会社がその温泉宿や地元に補償すればよいのです。原発の場合には広範囲に深刻な放射能汚染をもたらし膨大な補償を余儀なくされることを考えれば、微々たる金額です。もし廃業を余儀なくされる温泉旅館が出れば、その一家の働き手を地熱発電所で雇えばいいのです。旅館に比べれば安定していて、いい仕事です。

何より重要なのは、可能な地域では地熱発電所をどんどん建て、かつアイスランドのように隣接地域まで温水パイプを引くことで、日本全体で見れば相当な規模のエネルギー需要を満たすことができ、ひいては原発という悪魔の施設を再稼働させなくて済むということです。地域崩壊、国家崩壊のリスクを減らせるということです。

日本のような地震国で原発施設を運転することは、火薬庫の上で生活するようなものです。どれだけ多重に安全策を巡らしても完全ではあり得ません。そして原発施設自体だけが危険なのではありません。稼働が続く限り、どこにも持って行きようのない核のゴミが確実に溜まり、地下に大量埋蔵せざるを得ない日がいずれ来ます。その埋蔵された核のゴミが大地震で地表に噴き出せば、深刻な放射能汚染が災害地に繰り広げられるということなのです。

こうした最悪でありながら可能性の小さくない事態を招かないためには、原発に頼らなくても済む発電体制を早急に築くことです。地熱発電はその有力かつ現実的な手段なのです。しかも一旦建設してしまえば、圧倒的な経済メリットを長期安定的にもたらしてくれるのです。

なお、地熱発電だけで日本のエネルギー需要を満たせると主張している訳ではありません。現在のような火力発電への極端な依存を脱するためのベース電源は、原子力ではなく地熱であるべきだと申し上げているのです。多くの国民の安全を守りながら経済活力を取り戻すことと、温泉地の一部の人の既得権を守ることのいずれを取るのか、国家戦略として判断すべき時に来ていると考えます。皆さんはどう考えますか。