危機下で間違えずに決断できる経営者に必要なもの

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日経ビジネスの「賢人の警鐘」で見つけた鋭い指摘について続けます。今回は富士フィルムの古森CEOです。2月3日号で指摘されています。

「平時における民主主義や多数決を否定するつもりはないが、危機下では(周囲に意見は求めるが)リーダーが己の責任で決断し、組織を導く。経営者は優れた独裁者であるべきだ」と。そして同時に「その代わり、リーダーは自身の決断に責任を持たなければならない。リーダーの失敗で組織が壊滅する以上、『間違えました』では済まない」とも。

失敗の許されない決断の連続だった古森氏の言葉ですから、実に重いと感じます。CEO在任中の約10年間で、主力であったフィルム市場自体が20分の1に落ちたのですから、未曾有の経営危機です。並み以上の経営者でも連続大赤字は避けられないし、ちょっと失敗すれば間違いなく倒産です。それを乗り切り、しかも優良企業として再び脚光をあびるまでにした同氏の手腕は、いくら称賛しても足りないくらいでしょう。

神ならぬ身、判断を間違えないために同氏が集中したのは(情報と情勢を)「読む」(予測する)、「構想する」(優先順位を考え、実現プランを練る)、(明確なメッセージとして)「伝える」、「実行する」の4つだといいます。そして必ず実行させ成功させるためには「己の人間力を磨く以外にない、と断言しています。

大いに迷ったこともあるでしょうが、それを部下に見せずに全部自分で負ったことが窺われます。そのことに関し、3月31日号で述べておられます。

「100の決断をしたらそのすべてを間違えないという覚悟で日々の決断をしてきた。だが、決断の過程ではデッドラインぎりぎりまで考え抜いても結論が出ないこともしばしばあった。それでも、はっきりとした優位性が見えない時、リーダーはどうすればいいのだろうか。私は『いずれを選択しても正しいのかも知れない』と考えることにしている」と。

「経営者が完全な情報で判断できる機会はまずない。それを恐れて、意思決定を先送りするくらいであれば、どちらを選んでも成功の確率に大差ないと腹を決めて、いずれかの方向に足を踏み出すほうがいい。…リーダーの力量は決めた方向に社員を導き、実際に成功させること。決めたことに全身全霊を傾けていく。…『やる』と決めたら徹頭徹尾、スピーディかつダイナミックにやらなければならない」。

まさにこの覚悟こそが氏の飛び抜けて優れた資質であり、氏の言われる「マッスルインテリジェンス」の強靭さなのではないでしょうか。これこそが小生が同氏を尊敬する所以です。