WBS(ワールドビジネスサテライト)の7月2日放送、「激動中国への挑戦 イトーヨーカ堂苦戦のワケ」が示唆深かった。中国から撤退する日本企業が1200社になっており、北京に出店した日本のイトーヨーカ堂も、北京に9店出店して4店舗閉鎖撤退だというのだ。
事情についてはちょっと前に新聞報道されている。
イトーヨーカドーが中国で苦戦、北京4店舗目を閉鎖へ
http://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n201503050049
実はイトーヨーカドーは数年前までは中国で最も成功した日本企業の1社に挙げられるほど成功していたのだが、今や昔日の感がある。
中国で最も成功した外資系小売業
http://www.dfonline.jp/articles/-/6567
イトーヨーカ堂はなぜ中国で成功することができたのか
http://diamond.jp/articles/-/27992
そんな成功の絶頂にあったイトーヨーカドーが業績悪化に陥った理由は一体何だろう。
ヨーカドー関係者は「タイムリーに顧客満足度を得られなかったことが最大の要因」と語り、WBSの取材陣は北京市内での競合に押されていることを挙げている。成都のイトーヨーカドーから異動して北京の華糖ヨーカドー商業有限公司の副董事長兼総経理に就任した今井誠氏は、「北京ヨーカドーは価格戦争に入れ込みすぎたことで、企業としての発展が制約された」と述べている。
小生はWBSの放送中にヒントがあったように思う。苦戦するイトーヨーカドーの北京の店を尻目に、2つの店舗群が対照的に好調だ。北京を中心に急成長している「BHGスーパー」と、成都のイトーヨーカ堂店だ。
元中国国営のスーパー「BHGスーパー」のトップは、日本の西友を長く経験して転職した人物だ。日本流の工夫でイトーヨーカ堂を上回る成果を出していたのだ。しかも中国人スタッフの意見を取り入れながら、それを実行する部分で日本流の細やかな気配りを全面に出しているのだ。こうなるともう「おもてなし」は日本企業の専売特許ではないのだ。
一方、成功している成都のイトーヨーカドーは行列繁盛店だ。小生の記憶が正しければ、ここは反日暴動の際には暴徒に破壊された経験を持つはずだ。しかし今は中国人スタッフが中心になって店舗運営に磨きを掛け、常に新しい商品を提供し売り場を刷新しているのだ。今では日本含め全店最高の売上をたたき出している。
要は、この2つの成功例は商品政策・売り場構成には中国人スタッフの意見を取り入れ、どんどん新しい提案をしているのだ。そしてその接客の仕方においては日本流の細やかな気配りを忘れていないのだ。これが競合に打ち勝つための勝利の方程式だが、そのベースにあるのが現地スタッフの重用・登用だ。急速に移り変わる中国人消費者のニーズを正確に捉えられるのはやはり中国人スタッフなのだ。
それに反し、北京のイトーヨーカドーは一時の成功に奢ってしまい、それまでのやり方に固執し過ぎたのではないだろうか。「俺たちはこのままでいいんだ」と。そして細かい競合対策、価格政策に走ったのかも知れない。本当にお客様のニーズを捉え、実験的な試みを続け、仮説‐検証のサイクルを回すという仕事のやり方になっていないということだ。
そのどんよりとした内向き志向をもたらしているのは、幹部が日本人だけだという事実だ。つまり中国人スタッフの意見を重用する、彼らを幹部に登用するという基本的なことができなかったことが、中国人スタッフのやる気を引き出すことに失敗し、今の長期低迷という事態を招いているのだと感じる。