7月18日に放送されたカンブリア宮殿は、“奇跡の集客”シリーズ第2弾として、「世界を掴む“加賀屋流おもてなし”の秘密 33年連続日本一の旅館…その裏側」と題し、加賀屋とその会長の小田禎彦(おだ・さだひこ)氏をフィーチャーしていた。
石川県和倉温泉にある加賀屋は、『プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選』(主催:旅行新聞新社)で33年連続の日本一に輝く。高級旅館として知られる加賀屋は、最上位クラスの部屋だと1泊2食付き5万円も当たり前という価格設定だが、それでも「一度は泊まってみたい」という客が年間を通して訪れ、利用者はグループで年間29万にものぼる。客室稼働率は全国の旅館の平均が48%という中、驚異の80%!
そんな加賀屋の人気を支えるのは、客に圧倒的な満足感を与える「おもてなし」だ。番組ではその接客具合に密着していた。宿泊客の情報を事前にしっかり押さえ、到着から出発まで同じ客室係が担当し、客室係が出迎えから見送りまでかゆい所に手が届くよう、心地の良い接客に気を配る。客室係が客へのサービスに専念できるよう、客室に料理を運ぶ手間をなくす全自動配膳システムまで導入している。「失敗から学ぶ」ことを徹底、年間2万5千通の客からのアンケートを元に、様々な改善活動を続けている。
加賀屋の創業は1906年(明治39年)。3代目の小田禎彦会長の祖父母が部屋数わずか12室の温泉旅館として始めた。それが今では増築を繰り返して客室数は232にもなり、売り上げは120億円という巨大旅館へと成長した。その加賀屋が日本一と呼ばれる礎を築いたのが、小田の両親である2代目の與之正、孝夫妻。女将・孝は、客の出迎えに寝坊するというひとつの失敗をきっかけに一念発起。現在の加賀屋流おもてなしと「失敗に学ぶ」という風土を作り上げたのである。
番組を見終わって思ったのは、加賀屋の差別化は接客における徹底度だということである。確かに設備は豪勢で凄い。しかし万人がこのような巨大旅館に好感を抱くわけではなく、むしろマイナスな場合もあり、もっとこじんまりした高級旅館のほうが好きだという人が多いのではないか。また、本当の高級旅館であればどこも接客がしっかりしているのは当たり前である。しかし人がやること、どこかに隙が生じる。加賀屋ではその隙がもたらした失敗を繰り返さないよう、アンケートなどのお客の声をしっかり拾っているのと、接客従業員に徹底している。その徹底の度合いが凄いからこそ、33年連続の日本一という偉業も可能なのだろう。
少し現実的なことを云えば、加賀屋の客の大半は高級旅館にしょっちゅう泊る富裕層ではない。精々数年に1回、大半は一生に一度、銀婚式か何かで泊りにくる庶民だ。彼らは他の高級旅館のサービスを知らず、彼らが比較するのは中級の旅館とホテルだろう。単純に高レベルの接客をされると感激してしまうのもよく分かる。つまり他の旅館は「高級旅館-富裕層、中級旅館-庶民」という組み合わせなのに、加賀屋だけが「高級旅館-庶民」という組み合わせなのである。こうした他所と違うターゲティングとポジショニングのうまさも、別格のブランド旅館になっている理由だろう。