今こそ北方領土の返還をロシアに求めよう

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(以下、コラム記事を転載しています)

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ロシアのウクライナ侵攻が世界の非難を浴びている、このタイミングだからこそ日本は声高にロシアに要求すべきだ。「北方領土を返せ」と。その狙いは3つある。

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一方的な理由でウクライナに侵攻したロシアに対する非難の声と経済制裁は強まる一方だ。そんな中、日本が今すべきことがある。それは国際的なマスメディアを通じて改めて北方領土の返還をロシアに求めることであり、それと並行して日米軍事演習を北海道で行うことだ。

それがなぜ有意義なのかを説明しよう。意義は3つある。

意義1.北方領土問題の存在を世界に訴求できる

第一の意義は、日本とロシアの間に「北方領土問題」というイシューが存在していることを国際社会に訴えることができることだ。

長年日本が返還を訴えてきたのに、ロシア側は「そんな領土問題は存在しない」と無視して交渉にもずっと応じないできた(これについては竹島問題に関する韓国も同じだ)。そのためもあって、この問題は(よほどの日本通を除いて)国際的にはまったく知られていない。

この4月22日、日本政府は外交青書で19年ぶりに「日本固有の領土でありロシアに不法占拠されている」と記したが、逆に言うとロシアと交渉できる可能性を感じていた間はずっと明示してこなかったのだ。こうした相手の顔色を見るようなやり方を続けていては相手国からも国際社会からも日本の本気度が疑われ、余計に無視されてしまうことがなぜ外務省には分からないのだろうか。

後で触れるが、ソ連の火事場泥棒的な不法占領行為と、その顛末としての「北方領土問題」の存在を日本は国際世論に訴え、ソ連の後継国家であるロシアに対し領土返還要求を声高に続けなければならない。それにはロシアの無法ぶりが強く認識されている今が絶好なのである。つまり国際世論が「聞く耳を持っている」今だからこそ、強く広く世界に訴えるべきなのだ。

そうすれば将来、領土返還交渉が俎上に乗った際に、日本の味方をしてくれる国が一つでも増え、交渉を有利に運ぶことができるというものだ。

意義2.ロシアの極東部軍を足止めし、間接的にウクライナを支援できる

北方領土返還の要求を強く突きつけることで、ロシアの政治家たちの脳裏には日本政府が北方領土を諦めてもいない、忘れてもいないことが改めて刻まれるだろう。

しかも並行して日米軍事演習を北海道で行うことで、ロシア首脳部はこう懸念する可能性が高い。すなわち「我々がウクライナ侵攻に手こずっているこの隙に、日本は北方領土を武力で取り返そうとするのではないか」と。「自分たちならきっとそうする」という発想から来る猜疑心と警戒心がどんどん膨らみ、ロシアは極東方面に武力を温存せざるを得ない。

そう、第二の意義は、極東地域のロシア軍を、泥沼化が予想されるウクライナ侵攻に移転させることを許さずに極東に張り付けさせることで、間接的にウクライナを支援できることだ。

平和国家・日本はいくらウクライナに同情していても武器供与などの直接的な軍事支援をする訳にはいかず、対ウクライナ支援としてできることは限られている。今最も期待されていることは資金援助であり、この先でも戦後復興に対する経済・技術的支援だ。

しかし既に述べたように、北方領土返還要求と日米軍事演習を平行して行うことで、ロシアの全軍備をウクライナ侵攻に集中させることを妨げる効果は大きく、それは十分にウクライナに反撃の余地をもたらす、極めて効果的な支援策たり得るのだ。

意義3.将来の北方領土返還交渉に向けた呼び掛けとなる

北方領土の返還をロシアに求めるだけで即、ロシアが返還交渉に応じると期待する能天気な御仁はいないだろう。しかし将来のいずれかの時点で、ロシアにまともな政治家が現れないとも断言できない。そしてまともな政治家であれば必ず、対外軍事強化ではなく、経済再建によって国民の生活を守ることを最優先にするはずだ。その時には日本が今発する北方領土返還要求のメッセージが呼び起こされるだろう。

そう、第三の意義は、経済再建を希求するに際し日本に支援を求めるなら真っ先に切るべきカードは北方領土の返還だと、今のうちからロシアの国民と政治家に印象づけることができることだ。

ロシアの政治情勢というものは外国からは容易に伺い知れない。プーチンはこの先も病気や老齢で引退するまで20年以上も政権を維持するかも知れないし、来週にでもクーデターが起きて失脚するかも知れない。しかし仮にプーチン政権が倒れてもすぐに民主的な政権に切り替わる可能性はかなり低く、西側が期待するような民主化は十数年後かも知れないし、数十年後かも知れない。

しかし、今回の国際的制裁を受けてロシア経済が大打撃を受けることは間違いない。そして長い間の低迷期を経て、何代か後に経済・経営感覚を持った政治家がロシアに現れて政権を奪った暁には、経済再興がロシアの主要テーマになるだろう。そのとき、有力な支援パートナー候補として浮上すべきは日本だ。

長い間NATOから脅威を受け続けた記憶(しかも歴史的に欧州の大国から何度も侵攻された記憶とダブっている)が肌感覚として強烈なのに加え、エリツィン時代に欧米の官民がロシアから富を奪っていった詐欺的なやり口に関してはロシア国内では繰り返し語られてきたはずで、欧米に対する不信感はそう簡単にぬぐえないはずだ。それに引き換え、我がニッポンは現代史においてそうした「悪行」からは無縁だ。

つまりロシアが真剣に領土拡張より経済再建のほうが大事だと思い定め、かつ誠実に過去の暴虐行為を反省し、支援を求めてきた場合、日本という国は、北方領土の即時返還を条件として彼らの経済再建を真摯に支援することを約束してくれる、ホワイトナイト(白馬の騎士=窮地を救ってくれる恩人)になり得るのだ。

満州などでの残虐な行為やシベリアでの抑留・強制労働などの旧ソ連の非道を知っている日本人からは「何を身勝手な」という声も出ようが、少なくともロシア人にそういう潜在的期待を抱かせておくことは重要なのだ。さもないとロシアはより身近な欧州の国々にだけ助けを求めかねない。そうすると日本の出る幕は無くなってしまう。

北方領土を返還された上で、「再び強欲な欧米各国の餌食になりかねないロシアを救ってくれるホワイトナイト」として感謝される。そうした立場でなら日本国民の多くも溜飲が下がる思いを抱くことができ、「罪を悔いた大悪党」たるロシアへの支援を考える度量を持つことだろう。

北方領土問題の経緯を君は知っているか

ところで、そもそも日本人でさえ北方領土問題の経緯をきちんと理解している人は少ないかも知れない。

第二次世界大戦の終盤、敗戦の色が濃くなった旧大日本帝国は愚かにも、領土的野心を燃やすソ連に対し終戦交渉の仲介を依頼した。日本軍の窮状を認識したソ連は準備万端整えて、日ソ中立条約を一方的に破棄して火事場泥棒的に満州や南樺太に攻め入り、満州では武装解除した日本の関東軍と居留民間人を多く殺戮・略奪し、もしくはシベリアに送還し強制労働させた。

これだけでも十分な戦争犯罪だが、北海道北部の占拠を狙っていたスターリンは、日本がポツダム宣言に基づき敗戦を受け入れた後も千島と南樺太への侵攻作戦を発令した。その結果、占守島という千島列島最北端の島で日本軍の守備隊とソ連軍部隊は大激突する。

名将として名高い樋口季一郎・第五方面軍司令官はソ連の邪悪な意図を予想し配下の各部隊に警戒を怠らないよう指示し、ソ連軍の動きをいち早く察知し防御を指示した。隷下にあった第九十一師団に所属する現地守備隊は、多大な犠牲を出しながらもソ軍大部隊の侵攻を食い止め、大本営の命に基づき自ら武装解除するまでソ連の占拠を許さなかった(むしろ戦闘では優勢だったと伝えられている)。

この悲惨な戦闘のお陰でソ連の出足は食い止められ、一挙に北海道への上陸、そして占拠・分割といった悪夢は避けられた。ソ連軍の侵攻が遅れている間に、米軍が北海道に進駐したのだ。

その後もソ連軍は姑息なことに、武装解除した日本軍に抵抗される恐れがなく終戦後の連合軍が戦後処理の準備に入るまでの隙を狙って、択捉島、色丹島、国後島などを不法に占領したのである。

つまり北方領土は決して、プーチンが主張するような「第二次世界大戦に正式参戦したソ連軍が日本軍と戦って奪い取った名誉ある戦果」ではない。ソ連軍の行いは国際法を真っ向から否定した、火事場泥棒そのものだったのだ。