日経ビジネス誌の巻末近くに「賢人の警鐘」というページがあります。筆者は日本電産の永守会長、コマツの坂根相談役ら錚々たるメンバーが交代で務めます。小生は時々記事を切り抜いてしばらく手元に置いて、何度か読み直しをすることがあります。
その筆頭に名を連ねているのが、伊藤忠商事の前会長である丹羽宇一郎氏です。前駐中国大使でもある氏はアジアに造詣が深いということで、そうしたイシューに関するコメントがよく載せられています。失礼な言い方ではありますが、それらには随分「浅い」視点が多いと小生は感じます。
端的に言って、中国・韓国の言い分の政治的意図や社会的背景を深く分析することなく、「(当面の商売上不具合だから)理不尽な言い分でも我慢して飲み込め」という主張が多いのです。特に靖国参拝問題と従軍慰安婦問題です。もしそうしたら、この悪名高い2カ国がつけあがって、さらに要求をエスカレートするだろうということを、過去の経験から学んでいないと言わざるを得ません。
仮に中韓の言い分に唯々諾々と従った場合、日本が彼らの主張を認めることになるのが国際政治上の常識であるという悪影響を理解しているのでしょうか。過去に「理不尽でもうるさい連中だから聞いたふりをしよう」と「大人の対応」をしたために、中韓は「日本という国は、喚けばいうことを聞くのだ」とつけあがって、その後何度も援助資金などをむしり取られて、それでもまったくそれぞれの国内に対し日本の好意を伝えることなく、むしろ悪しざまに宣伝され続けたことを知らないとでも言うのでしょうか。
また、冷徹な対中分析(領土的野心を隠さない異形の大国であり、かつ軍部に対するシビリアンコントロールが必ずしも効かないことなど)を欠いて、駐在時の中国要人が紳士的であったとか、これこれ言っていたとか、個人的感覚で外交や政治的判断に口出しすることは、元駐中国大使としては安直過ぎます。また韓国に対する見方もあまりにナイーブ(世間知らず)で、日本というブランドを汚すことが今の政権の戦略的方針だということが分かっていない癖に、妙に韓国に共感を覚えているようなのです。まるで朝日新聞の主張のコピーです。
例えば本年7月7日号の日経ビジネス誌では従軍慰安婦の話題を出して、「韓国側は、…。日本の姿勢を問うている。ならば、日本の政治家はもっと相手の立場を考えて行動すべきだ」と書いていますが、韓国の立場というのは、わざと困らせようと日本にいちゃもんをつけているものです。
まず事実を踏まえる必要があります。韓国の団体や政府が主張するような、日本の政府・軍部が朝鮮人の慰安婦を強制的に連行した事実はありません(朝日新聞が吉田虚偽証言に基づき誤報しただけです)。事実は、朝鮮人の貧しい家族が、朝鮮人業者に売ってしまったのです。朝鮮人業者は家族から離れるのを嫌がる娘たちを騙して慰安婦にして軍隊の慰安所に送り込んだのです。そしてこうした貧しさからくる悲劇は朝鮮人だけでなく、日本人の娘たちにも同様に(しかももっと多数)生じています。なぜ朝鮮人が朝鮮人にしたことで今の日本人が責めを負わなくてはいけないのか、誰がまともな説明をできるでしょう。丹羽氏はそれでも日本政府が謝罪すべきとでもいうのでしょうか。
氏は「韓国など周辺国の国民文化も理解した上で、それでも参拝するというのであれば、事前にもっと丁寧な説明をすべきだ。…と、粘り強く理解を求める」と言っています。実際、日本側はそうした努力をずっとやってきていますが、日本のメッセージを韓国側が無視し続け、日本が求め続けている説明のための政治家の会合すら拒否し続けているというのが実情です。
ましてや「靖国問題は日本側から仕掛けた話だ」と氏が言っているのは大いなる間違いであり、氏の認識の浅さを露呈したのか、それともわざと事実を曲げてしまったかのいずれかです。間違いなくこれは韓国側から仕掛けた話です。こうした事実関係まで捻じ曲げてしまうところも、朝日新聞と同じ体質をもった人物かと疑わせる所以です。伊藤忠という大企業のトップを長年務めた人物として、民間出身の前駐中国大使として、これ以上恥をさらされることがないよう、早急に完全引退していただきたいものです。