中国事業に伴う人質リスクを認識せよ

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米中対立が激しさを増す中、それでも既に中国での事業を展開してきた日本企業としては、中国事業が持つ比重や重要性が大きいため、そう簡単に縮小・撤退には踏み切れないケースが多いようです。地政学的リスクと経済的リスクが一挙に膨れ上がってきているのは十分に認識しながら、です。

そうした企業にとって、非常に悩ましい状況が新たに表面化しています。それは、中国に渡航・駐在した企業幹部らが現地で拘束されて出国できなくなるケースが増えているというものです。

2023年7月に施行された「改正スパイ法」は、スパイ行為の対象が「国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料、物品」の窃盗や不法提供などに拡大されました。しかも運用の基準は不透明で、すべての業界の日常的な事業活動まで対象にされ得るものです。

すでに多くのグローバル企業(日本企業以上に欧米企業が多くを占めるようです)が、自社の幹部が出国を妨害され逮捕される、または金銭目的の人質にされてしまう事態に直面しています。

MIT Sloan Management Reviewに発表された、米カリフォルニア州立工科大のJack Wroldsen助教授とChris Carr教授による事例研究によると、2023年までの過去10年間に少なくとも100件以上の出国禁止措置と人質事件が確認されているといいます。実態としてはこれよりかなり多いと彼らは推測しています。

ビジネス上のトラブルが原因で出国禁止措置を受けた外国人は、事前警告なく空港で国際便への搭乗を妨げられることが多いそうです。その際には、出国禁止措置の理由や異議申し立ての方法を教えられることもなく取り調べを受けるのです。

このような出国禁止措置は、本人が中国の取引先の要求に応じた場合にのみ解除されるようです。つまり取引先(大抵は中国企業)は、当局に外国人個人の自由を制限してもらうことによって、取引を自分たちの思い通りに進めることができる訳です。

仮に出国禁止措置を受けた外国人が、時間と費用を惜しまずに中国に残って裁判で争うことを選んだとしても、勝訴は期待できないと見られています。それが中国です。

こうした事情から、外国人には、取引上のトラブルを解決するための手段として人質にされるリスクもあります。ホテルの部屋やオフィス、工場などに監禁されるのです。

もちろん、中国においても金銭目的で人質を取ることは違法で、本来なら最長3年の懲役に処せられます。しかし実際のところ、明確な暴力行為が発生しない限り、中国の法執行機関はこうした状況への介入を拒むことが多いとされます。

金銭目的の人質事件は通常、数日から数週間程度で解決しますが、出国禁止措置は数か月から数年間も解除されないことがあります(例えば、アステラス製薬の50代日本人社員は2023年3月に拘束され、未だに帰国できていません)。

少なくとも企業は、訴訟を起こされている、もしくは起こされようとしている疑いがある場合、あるいは中国企業に対して債務を抱えている場合には、役員や従業員にこんな怖い国に出張をさせるべきではありません。