ロボット革命はパンドラの箱を空けるのか

ビジネスモデル

3月17日(日)に放送されたNHKスペシャルの「ロボット革命 人間を超えられるか」では、世界で急速に進行しているヒューマノイドと呼ばれる人型ロボットの開発・活用状況が紹介されていた。

ヒューマノイド人間に細かく操作されなくても自分の判断で行動して、階段を上り道具を扱うことが特長で、これまで本格的な開発は、日本でしか行われていなかった。さすが鉄腕アトムの母国である。その適用対象としては工場などで動く産業用ロボットばかりだったのが、福島原発事故により想定外の緊急事態において人間のように判断し、さまざまな作業ができるヒューマノイドの意義が世界で認識されたという。

現在世界最高のヒューマノイド・アシモが番組前半に詳しく紹介されている。そのセンサーや人口知能技術のレベルは凄いものである。人と会話して判断し、案内し、飲み物をサービスできる。身体能力も高く、バランスを保ちながら歩くことも走ることもできる。

しかしホンダは福島原発事故の際に投入できなかったことに忸怩たる思いを抱き、災害現場に対応できるロボットの開発を急いでいる。まずはアーム型ロボットで現場の隅々までカメラ撮影する。しかし技術陣が目指すのはアシモの進化版の自走・自己判断型である。元々平らなオフィスしか想定されていなかったアシモにとっては、かなり高いハードルである。匍匐前進もする。この技術開発に成功すると、足場の悪い作業場でもアシモ型のヒューマノイドが「サービス」(アシモのレベルは作業ではない)を提供できることになる。

米国防総省では、大規模災害に対応できるヒューマノイドに急速に期待し、過酷な戦場で蓄えたノウハウ(油圧式稼働部分など)を動員する。二本足の「アトラス」や、四足「チーター」、運搬用「LS3」等々。開発コンペのプロジェクト「ロボティクス・チャレンジ」もスタートさせ、世界の企業や研究機関の頭脳を集結している(有効な研究ごとに最大4億円の補助を出す)。でも彼らのホンネは兵士の代わりをさせるという軍事転用に間違いないだろう。

実際に福島原発に投入されたのはアメリカの軍事用ロボット「パックボット」で、マイクロ戦車みたいなものだ。人口知能による自走式ではなく遠隔操作であるからヒューマノイドではない。災害対策用なら別段その必要もなく、カメラによる視認ができるようにしてあれば遠隔操作で十分なはずだ。

このあたり、「アシモ投入」を要望した一般人はもちろん、東電も多くの論者も混乱している気がする。専門家ですら一見して判断に迷うような状況を正しく人口知能が判断できるようにプログラムすることは、現時点では難しいだろう。

今、注目すべきはやはり産業ロボット。ここからの内容は、これは1月半ばの日経ビジネス誌に「人型ロボットと働く日」と題して掲載されていた内容と近い。Rethink Roboticsの「バクスター」は低価格と簡単指示法をウリに世界で売り出そうとしている。面倒なプログラミングなしに、「手取り足取り」すれば作業指示ができるのである。人件費を考えれば数カ月で投資が回収できるという。現在、生産が追いつかないほどの注文があるそうだ。

日本ではグローリー等で採用された、川田工業が100台を超えるヒューマノイド「ネクステージ」を累積出荷しようとしている。これは「バクスター」より細かい作業が正確にできる。少しゆっくりではあるが人間の作業者と並んで作業を黙々とこなし、仕掛品を人間と受け渡しする。

ヒューマノイドは休憩を必要とせず24時間働く。いずれ人間の作業者は企画などのより高度な「知的な仕事」にシフトし、先進国の工場で補充される大半はヒューマノイドになるかも知れない。それでも工場自体が海外新興国に移転されるよりは雇用全体にとってはよいはずだ。