三菱航空機が開発した国産初の小型ジェット旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)が先月の11日、名古屋空港から飛び立ち遠州灘の上空などで1時間半の初飛行をしたことが全国で報道された。日本のモノづくりに関する、久々の明るい話題だった。ちょうど人気のTVドラマ「下町ロケット」を彷彿させるものである。
国産旅客機の初飛行は、何と1962年8月(日本航空機製造のプロペラ機「YS‐11」)以来の53年ぶりの出来事だった。
MRJプロジェクトは2008年3月での事業化の正式決定以来、苦難の連続だった。当初は11年に初飛行を予定していたが、設計見直しなどで延期。試験飛行機は昨年10月に完成したものの、操舵用ペダルの改修などで5度目の延期。どうなるものかと危ぶまれていたプロジェクトなのである。当初計画から4年遅れとはいえ、この成功が初号機納入に向けて弾みとなることは間違いない。
だが、前途にはいくつもの高いハードルが待ち受けている。
最大の難関は、日本や米国など国内外の航空当局による安全性に関する「型式認証」の取得だ。型式証明をパスするには強度や装備など400の項目をクリアしなければならない。17年4~6月にANAホールディングス傘下の全日空に量産初号機を納入する予定になっており、この納期を守るためには、17年春までに型式証明を取得しなければならない。
型式証明を取得するには約2500時間の試験飛行が必要とされるため、三菱重工は今後、地元の名古屋空港ではなく、飛行頻度に制限の少ない米国での試験飛行という「裏技」を繰り出すそうである。日本の航空当局の担当者は米国への頻繁な出張を余儀なくされるので、予算増を申請中だという。少々滑稽だが、三菱重工の覚悟も伝わってくる。
こうした苦労も、MRJが国際商戦で勝ち抜いて受注を積み上げることができれば、笑って振り返ることができるエピソードとなる。しかし航空会社相手の売り込みというのは、三菱重工のような「内弁慶殿様」にはかなりタフな仕事だ。航空機関係の展示会での様子を放映した番組を観たことがあるが、現物ではなく模型で造りや使い勝手のよさを説得する社員の奮闘する姿についエールを送ってしまった。
これまでの受注は、全日空、トランス・ステイツ航空、スカイウエスト航空、イースタン航空、マンダレー航空、日本航空の6社から407機(確定223機)という。しかし昨年8月を最後に新たな受注はゼロ。欧州からは1機の受注もないそうだ(2015/12/1時点)。目標の1000機の受注にはほど遠い姿だ。
初飛行の延期がこれまで5回もあったことが響いていることは間違いなく、航空会社が購入に慎重になっていたことを示している。
いくら燃費がよいことをアピールしようとしても、「でも実際に飛ぶのはいつ?トラブルが起きないか、よく実績を見ないとねぇ…」と言われれば、すごすごと引き下がるしかなかったのだ。何といっても実績・経験と整備サービス体制が一番モノをいう世界なのだから。
それがようやく初飛行に成功したことで、ここからは本格的な商談が期待できる。ニッポン製の部品は意外と少なく、世の中やマスメディアが報道するほど地元経済に恩恵をもたらすボリュームは期待しづらいが、それでもニッポンのモノづくりの象徴の一つにはなり得る存在だ。頑張れ、MRJ!