ブラック企業をのさばらせない

社会制度、インフラ、社会ライフ

最近の小生の関心事の一つはブラック企業の行く末だ。以前にコラム記事で予言した通りになりつつある。
人手不足時代には人材使い捨てと単なる安売りは通用しない

ワタミやゼンショー(すき屋の運営会社)などの飲食業が典型だが、利益・売上至上主義の体質がまん延すると、社員・パートを人とも思わずこき使う。すると悪評が拡がり、募集しても人が集まらず、やがて店舗運営が崩壊する。それが表面化すると客足が途絶え、経営的に大きなダメージを受けて、初めてようやく間違いに気づく。愚かなことを多くの企業が繰り返している。

飲食業だけでなく、小売業でも輸送業でも同じだ。小生が最近注目しているのは介護業界だ。ただ残念ながら、客である利用者が簡単にスイッチできず、それが悪徳業者(福祉法人の名をかたっているが実態はひどいのも少なくないと聞く)をのさばらせてきたのだ。しかしスマホとSNSが普及したことで、悪評が拡がりやすい環境が整い、そろそろ彼らも年貢の納め時が近づいているようだ。

2月09日放送の「ガイアの夜明け」はいつもと趣向が違っていた。題して『密着!会社と闘う者たち 〜”長時間労働”をなくすために〜』。組織的に〝長時間労働〟を強いるブラック企業と闘う人たちの姿を追っていた。

前半の主人公は、長時間労働が疑われる大手企業を対象に、全国にまたがる”大規模事案”を専門で取り締まり、悪質な場合は刑事事件として摘発する国の機関、「過重労働撲滅特別対策班」通称「かとく」。メンバーは10年以上の経験を持つ労働基準監督官のエキスパート。改ざんされた出勤簿のデータの復元など、特殊ケースにも対応する。悪質な場合は刑事事件として摘発する。番組では、この「かとく」を10ヵ月に渡り密着取材したのだ。

2015年4月に厚生労働省で発足、2015年7月にはその第一号案件としてABCマートを書類送検。残業代の未払いではなく長時間労働そのものを罪に問う、画期的な事案だった。そして次に秘密裏に捜査を始めたのが、全国展開する日本最大級のディスカウントチェーン「ドン・キホーテ」。これまで全国各地の労働基準監督署から40回以上も是正勧告を受けながら、全社的な改善が見られず悪質だ。監督官たちは、「店舗の内偵」「本社や関連会社の家宅捜索」「押収品の分析」などを駆使し、実態を暴いてゆく。”労働Gメン”の闘いは迫真ものだ。

後半は、一個人の勇気ある闘いを描いた。全国チェーンの引っ越しサービス会社、「アリさんマークの引越社」は日本各地で30人近い元従業員から集団訴訟を起こされている、ブラック中のブラック企業だ。中でもAさん(34)は、現役社員として働きながら会社と闘っている唯一の存在だ。

Aさんの訴えは「月300時間を超える長時間労働」と「残業代の未払い」、さらに車両事故の高額な弁償金を社員個人に負わせる「弁償金制度」だ。長時間労働の上に、その疲労から事故を起こせば弁償金を背負わされ、さらに働かなければならない悪循環。

Aさんは会社に是正を求めるため、労働組合に加入し団体交渉などを通して問題を解決しようとした。しかし直後に会社側は、Aさんを「シュレッダー係」に異動させ(この際の上司の罵倒の言葉が録音されており、ひどいものだった)、その後「会社の情報を漏らした」と言いがかりをつけ、一方的に懲戒解雇を言い渡してきた。しかしAさんが不当解雇として弁護士に駈け込むと、とたんに復職を通知してきたという。残念ながら会社の態度は変わらず、Aさんは相変わらず「シュレッダー係」のままだ。

こうした事情については、Change.comで小生はたまたま知っていた。こうした行為に関する取材に対し、企業側はAさんへの対応の正当性を訴える。しかし客観的に見ればこの会社はブラックそのもの。抗議行動をするデモの人たちや取材者に対する態度もヤクザ者そのものだ。この放送が全国に流れた今、この会社に引っ越しを依頼する客は激減し、この会社に応募する働き手は消え失せるだろう。

今、労働組合とAさんは東京都労働委員会や裁判を通して闘いを続けている。引越社からの歩み寄りはまだないようだが、いずれ腰砕けになって和解を申し入れる羽目になるか、その前に会社が倒産するかのいずれかだろう。