ブラック企業に立ち向かうには

ビジネスモデル

9月12日(木)のハートネットTV(NHK)は「若者を潰す“ブラック企業”―巧妙な手口・対策はあるのか」と題し、ブラック企業にどう立ち向かうのかを論じていた。

「ブラック企業」とは、長時間労働や残業代の未払いなどの劣悪な労働を強い、従業員を使い捨てにする企業のこと。国が発表する労災認定でも過労自死や鬱(うつ)などが過去最多を記録中である。中でも20代・30代が半数近くに及ぶなど、若い世代が「使い捨て」のターゲットになっている。企業が利益を最優先に考え、人件費を圧縮させるためサービス残業や長時間労働を強いる、違法すれすれの労務管理が新興企業を中心に広がっているのである。

小生のように旧い世代の人間だと、「そんなに酷い労働環境なら辞めてしまえばいいじゃないか」と不思議がるはずだ。しかし今の若者たちには同情すべき点が多い。

初めて就職した会社がブラック企業だった場合、若者はその環境が異常だという発想にはなかなか至らず、むしろ自分を責めてしまう。たとえブラック企業だと気づいたとしても、就職氷河期で苦労した体験から、「この不況下で次の就職先が見つかるだろうか」という不安が大きく、体を壊すまで我慢する。いずれ転職することを考えたとしても、すぐに辞めてしまうことで「我慢のできない奴だ」とみなされかねない、と我慢する。

そのため過労自死や鬱という悲惨な結果にまで至ることになるのだ。ブラック企業側はそれを見越して、絞り取れるだけ絞り取るのである。まるで現代の「蟹工船」「女工哀史」である。この国は先進国になったのではなかったのか。

この劣悪な労働環境を何とかしたいと、若者たちが運営するNPO(番組ではPOSSEという団体の代表が積極的に主張していた)、弁護士や労働組合が声を上げるようになっている。そして、ついに国も動き出した。8月には国が初めて「ブラック企業」への対策を発表。9月には電話相談や、「ブラック企業」と疑われる約4千社へ労働基準監督署による集中的な監督指導を行うことが決まっている。

今回番組では、企業を取り締まる労働基準監督署に長期密着。見えてきたのは、その取り締まりの難しさである。多くのブラック企業が、若者を使い捨てにすることで自らの利益を増やそうとして、「みなし労働」制などを実に巧妙に利用している。違法すれすれの確信犯揃いなのである。だから証拠なしにはのらりくらりと言い逃れされてしまう。

個人がどう立ち向かえばいいのか。自分一人で抱え込まずに、まずは誰かに相談すること。ブラック企業には労働組合がないケースが多いため、先に挙げたNPO(業種を超えた労組も含む)や弁護士事務所に駆け込むのが実際的だ(いきなり労基に行ってもあまり役立たない)。その際に証拠を提出するため、普段から勤務実態や上司の言動をメモに取るなど、普段からの証拠残しを心掛けるのが重要だというのが、番組からのアドバイスであった。

しかし全く腹立たしい。こうした利己的で短期的視野しかない企業のために貴重な若者の意欲と時間が浪費されてしまい、時には人生さえ奪われてしまうなんて、何とも理不尽である。せめて酷い目にあった若者は、母校の就職課に報告し後輩の災いを取り除くべきだし、厚労省も悪質な企業の名前は公表し、「遣り得」にさせないことが重要だ。

【みなし労働】
ある一定時間を働いたとみなして、給与を払うという仕組み。みなし労働の中には大まかに「1 固定残業代」(労務管理の手法として広く居酒屋の店員など広がっている)、「2 事業場外みなし労働」「3 専門業務型裁量労働」、「4企画業務型裁量労働」という種類がある。2、3、4に関しては労働基準法に定められたやり方で、職種や働き方などに定めがある上、それぞれ労働基準監督署に労使協定などの届け出が必要。