パンクの心配が大幅に減る「エアハブ」。アジアに売り込み!?

グローバル

2月9日のBSジャパンの日経スペシャル「アジアの風 小さな挑戦者たち」は、自転車最大のトラブルを解決した中小企業の話。その主人公は株式会社中野鉄工所の社長、中野隆次(なかのたかじ)氏。ハブ(車輪と車体を繋げる部品)に画期的な機能を加えることに成功、大手自転車メーカーに提供し話題を呼んだ。

自転車は乗っても乗らなくても極小の穴からタイヤは空気が漏れるが、ハブに空気入れの機能をつけた「エアハブ」であれば、一日に約200メートル走るだけで自転車のタイヤは適正気圧を維持する。これにより自転車最大の悩み、パンクの大半が解決される。パンクの主な原因は、空気圧が低い状態で段差のある箇所を通る瞬間、道路(または縁石など)とリムとの間にタイヤのチューブが挟まれて生じる。それが適正気圧を維持してくれるエアハブをつけることによって、パンクの可能性が劇的に減るのである。

番組では日本の自転車産業が辿った衰退への道が紹介されていた。1990年には国産自転車が800万台に対し中国からの輸入車は66万台。それが20年後には全く逆転してしまい、今では日本の自転車の約9割が中国製という。10社あったハブメーカーも1社(=中野鉄工所)だけになり、起死回生の策として開発されたのがこのエアハブなのである。

2004年に完成したエアハブは日本の大手自転車メーカーに採用され、販売台数は7万台を突破。その技術力は高く評価され、2005年には第一回ものづくり日本大賞に輝いている。当時のニュースでもかなり取り上げられており、注目されたのが分かる。しかし日本での現在の普及率は今一つなのだろう(これは日本が先進国らしからぬ構造を持っているからだが)。そして今、中野氏はアジア市場を目指すという。

番組では台湾(世界的メーカーが集積する生産拠点でもある)および韓国市場をターゲットに、各市場に詳しいコンサルタントに見通しを尋ねていた。両コンサルタントからは将来性があるとのコメントが寄せられていた。しかし小生は番組およびコンサルタントのロジックのチグハグさに、素朴に疑問を感じた。

そもそもエアハブを付ける自転車はある程度の高機能製品である。使い捨て感覚のママチャリやアジア庶民の足がターゲットではない。むしろエコを重視するがために通勤・通学で自転車を使う、欧米および日本といった先進国の比較的若い層の消費者である。するとそうした市場に強い(または強化したい)先進国のメーカー(および先進国の小売企業)に売り込むべきではないか(台湾メーカーも含んでよいが)。少なくとも自転車が重視されていない韓国市場は的外れだろう。

折角の高い技術力なのに、支援する側がよく考えていないために足を引っ張ることになるのは惜しい限りである。あーあ、こんな話、そこらじゅうにあるのだろうなぁ。