ソフトバンクのスプリント買収が持つ、2つの意味合い

ビジネスモデル

ソフトバンクが米携帯電話3位のスプリント・ネクステルを買収すると発表した。買収資金はメガバンクからの総額1兆6500億円の借り入れで賄うという。市場では、ソフトバンクの今回の合併に対し色々と批判的な見方が多い。外国企業を対象にした通信分野でのM&Aは、周波数帯の違いなどを背景に使用する端末の機種が異なるなど、相乗効果が小さいとの見方が多い。NTTドコモのAT&Tワイヤレスに対する資本提携と失敗も引き合いに出されている。

しかし、所詮それらは評論家的、外野のヤジに過ぎない。アニマルスピリットを発揮することこそ企業経営者の真骨頂であり、さすが孫さんと小生は高く評価する。

もう一方では、能天気な報道も相次いでいる。将来的に通信方式を日米で統一することで基地局設備や端末仕様が共通させ、規模の経済により通信料金の値下げも期待できると。確かに企業収益の向上にはそうした方策を執るだろうし、かなり先の将来には通信料金の値下げ(というか値上げの抑制)につながるところもあろう。しかし後述の通り、短期的には全く逆である。

さて、この買収には2つの意味合いが読み取れる。1つは、孫さんとしては今が円高のピークであり、かつスプリントの業績が底入れしたと読んでいるのだろう。ある外資系証券M&A担当幹部のコメントがネットに載っていたが、「日本もこれだけ疲弊し、グローバルな先行きも不透明さを増している。どこまで積極的にM&Aをすべきか慎重な経営者が増えている」と、情けない事情を伝えている。しかし国内市場の伸びが期待できず海外市場に期待せざるを得ないのなら、しかも基本的にキャッシュフローを稼げるビジネスであるのなら、円高の今のうちに既に確立した現地事業を買収することを選択するのは合理的である。まだまだソフトバンクの負債は半端でない金額であり、本来ならもう少し圧縮してから仕掛けるのが常識的考えだが、孫さんはそれでは機を逃す、円高のピークは今、スプリントも今が買い時と読んでいるのは間違いない。

もう一つの意味合いは日本の消費者にとっては面白くない予想である。スプリント・ネクステルを買収する1.6兆円という途方もない金額は銀行からの借入金でファイナンスするそうである。何と総額1.8兆円の協調融資という。確かにキャッシュフロー総額も日米ダブルインカムになるので増えるが、米国市場というのはかなりシビアで日本以上の激戦区である。今回の出資額は基本的にスプリントの設備投資更新、特にLTE化に使われ、またソフトバンクが日本市場で培ってきたマーケティング手法を米国市場で適用するのに全額使われよう。つまり債務の返済原資の主体は日本市場から上がるキャッシュと推論される。

結論からすると、ソフトバンクは日本市場を「キャッシュ・カウ」の位置づけにし、「価格競争の仕掛け人」の立場から降りると宣言したようなものである。多分、「犬のお父さん」のようなブランド広告はこれからも続くだろうが、業界の先陣を切っての「XX割」をアグレッシブに打ち出すソフトバンクの姿はしばらく見られなくなろう。これに対しauとドコモがどう仕掛けるか、見ものである。