コマツの強さは「ビジネスモデル+現場力」

ビジネスモデル

5/16(木)の「日経プラス10」にコマツの坂根相談役が出演、色々な質問に答えられていた。坂根氏は小生の最も尊敬する経営者の一人であり、その経営に魅力を感じて株主になっていたこともあるくらいである。

建機の売れ行きが景気の先行指標になるというお定まりの「前振り」があった後、実は経済成長地域もまた明白に示すという面白いグラフを坂根氏が示した。それによるとバブル経済の頃、建機の販売額で見て、日本市場の世界に占める割合はほぼ4割を占めたというのには驚いた(そりゃコマツや日立建機が大企業になったはずですよ…)。しかしそれ以降、日米欧の先進国地域は右肩下がりに下がり続けており、2010年には新興国が7割(その半分が中国!)を占めるまでになった。直近では米国・日本が少し持ち直してきており(各々2割、1割にまで回復。その分だけ中国が縮んで今や1割)、まさに「景気のよい地域」を如実に表している。

キャスターの質問に答える中で幾つか興味深いエピソードも開陳された。有名なKOMTRAX(建機の位置とエンジンの動きをセンサーとGPS通信で常に監視するサービス)の発端は今のような稼働状況をモニタリングする目的ではなく、建機の盗難防止策だったこと(当時、盗難した建機を使ってATMを破壊し現金を奪い去る事件が多発していた)、それを当時サービス部長だった坂根氏が指揮して考案したこと。以前にも聞いた気がするが、やはり面白い。

そのうちコマツはこれが盗難防止だけでなく稼働状況モニタリングサービスとして付加価値があることに気づく。そのため当初はその機能をオプションとして売り物にしていたが、必ずしも採用率は高くなかった模様。やがて社長となった坂根氏は、この機能を標準装備とする決断を下す。1000万円の本体価格で20万円ほどのコストをメーカーが負担するわけだから、それだけ利益が削られる。それでもこの機能は「ユーザーのためではなく、自分たちのためだ」と社内を説得したそうだ。

社長だからこそできる英断であり、お陰で競合有力メーカーに相当先行できた。その後の中国とその他新興国市場での非価格競争力の源泉になって同社が躍進したことで、坂根氏の炯眼が証明された。つまり建機オーナーには「この地区にあるこの建機はこの時間帯は遊んでいますよ。この地区にもっていけばフル稼働させられますよ」と持ち掛けることで、価格の安い中国製でなくコマツ製を選んでもらえるのだ。盗難されても追跡できるので、盗難予防効果もある。新興国にはピッタリだ。

もちろん、この機能を標準装備するからにはコストダウン努力は凄まじいものがあったに違いないし、市場に対し説得するための営業努力も多大であったろう(株主総会でも説明を受けた気がする)。それを坂根氏は「現場力の勝利」と呼ぶ。知恵を使ったビジネスモデルの力と現場力の組み合わせ、それがニッポン企業の躍進には欠かせないことをコマツの例が教えてくれる。