7月29日放送のガイアの夜明けは「”和牛(WAGYU)”その知られざる真相」。注目している豪州産WAGYUについて詳しい情報を知りましたが、やはり割り切れない思いがします。
香港や、シンガポール、バンコクなど、急成長を続けるアジア諸国の国のレストランや市場で人気となっているのは、日本産よりも豪州産WAGYUです。中でも最高の評価を受けているのが「ブラックモア和牛」という名の和牛。販売店では「日本の和牛より高級だ」と主張しており、事実、値段は(神戸ビーフ以外の)普通の日本産和牛より高めです。
メルボルン近郊にある「ブラックモア和牛」の生産者を取材班が訪ねました。そこでは3000頭もの和牛が生産されており、遺伝学的にも、正真正銘の「和牛」なのだといいます。Mr. WAGYU、ブラックモア氏は血統証明書まで持っており、それをTVカメラに見せてくれました。ブラックモア氏をはじめとした豪州産WAGYUの生産者は、元々は日本から米国に輸出された和牛とその精液を元に生産を増やしてきました。最近は地元のアンガス牛に交配させることで、交雑種ながら肉質のよい牛が大量に作れるようにもなっています。
これまで、オーストラリアの和牛生産者として、数多くの取材を受けてきたというブラックモア氏。しかし、どこでそれを手に入れたかについては、多くを語ってきませんでした。和牛遺伝子を輸出した人物が日本国内で強く批判されていることを知っていたからです。今回、ブラックモア氏は、和牛遺伝子の入手の経緯をガイアの取材に対して初めて明かしました。その協力者は、北海道に住む武田正吾氏だといいます。
ガイア取材班は早速、北海道に飛び、その人物に会います。御年87歳の和牛生産者。白老町での酪農のパイオニアの一人だそうです。彼が飼っていた和牛とその遺伝子を輸出しようとした当時、日本の「全国和牛登録協会」が、和牛遺伝子を海外に出さないよう生産者たちに強く要請しており、武田氏のもとには同業者たちが抗議のために押し掛けたといいます。和牛遺伝子を海外に流出させた理由を、武田氏は「日本の酪農は海外品種のお陰で成り立っている。逆に日本から海外に出せるものは和牛しかない。それを出さないのは日本のエゴである。海外でなら和牛を安く生産することができ、海外の人にも美味しい和牛を安く食してもらえる」と主張します。
確かにそうなのですが、今の和牛はやはり日本の生産者達の研究と努力の賜物であり、一人の酪農家の勝手で輸出してよいものではないと思えます。確かにアジア・太平洋の多くの人々が安く和牛を食べられるようになったのはいいですが、その利益は日本の酪農家や研究家たちには全くといっていいほど返ってきていません。
加えて、縮小する国内市場への依存から逃れるべく、日本の酪農家や企業が今、和牛を輸出しようとしていますが、その眼前に割安で美味しい豪州産WAGYUが立ちはだかっているのです。いわばコピー商品にオリジナルが駆逐されてしまっている事態なのです。2重の意味で、武田氏の行為は日本の酪農家の利益を失わせることになったのです(実は武田氏以外にも和牛を輸出した企業が2社?ほどいたそうですが)。
そのコピー商品に対してライセンス料を請求することが第一の手段。それが無理なら、「和牛」およびWAGYUの名称使用を差し止めるよう日本政府(農水省)の金を使って各国で裁判を起こす方策はないのでしょうか。米国政府だったら絶対やっていると思います。
番組の後半で放送していたような日本ブランドの認知を向上させる努力は必要ですが、そもそもコピー商品たる豪州産WAGYUのほうがコストパフォーマンスでは圧倒的に上なのですから、ブランド戦略だけでは勝てません。むしろ知財戦略を中心にした上でブランド戦略を加える、といった構えでないと勝負になりません。官僚(農水省)と農民(酪農家)、あと少々の卸業者だけではそうしたグローバル市場での闘い方は思いつかないのかも知れませんが、このままでは負け戦必定と危惧されます。