カスハラへの対処は企業姿勢が問われる

ブログBPM

(以下、コラム記事を転載しています) **************************************************************************** 

カスハラは従業員の精神を蝕む。カスハラを放置すれば企業の存続を脅かすことになる。経営者はしっかりと認識すべきだ。

**************************************************************************** 

顧客が企業の従業員に理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題化している。

カスタマーハラスメントとは、顧客による店員やサービス提供者への過度な要求や無理なクレーム、威圧的な態度、不当な扱いなどの行為のこと。「カスタマー(顧客)」と「ハラスメント(嫌がらせ、迷惑行為)」を組み合わせた造語だが、和製英語ではなく立派に世界で通用する(しかし「企業の従業員が泣き寝入りする割合」を考えると、日本でこそ注目されるべきだろう)。

カスハラの事例は対応企業事例などで公開されているし、SNSなどでも結構見ることができる。それらは氷山の一角と云えようが、それでも多様な業種の従業員がひどい目に遭っていることは分かる。なかには「嫌がらせ」「迷惑行為」のレベルをとっくに超えて「犯罪行為」としか言いようがない例も少なくない。

ただしカスハラを行っている当人としては「迷惑行為」と認識しているケースは少なく、その大半は「正当なクレーム」だと認識していると考えられる。つまり「企業側が間違っているから問題点を指摘してあげて、改善を要求しているだけだ」という認識なのだから厄介だ。

では客観的に見た時、「カスハラ」と正当な「クレーム」との境目はどこにあるのか。幾つかの専門家の解説や厚生労働省の「カスタマーハラスメント企業対策マニュアル」を総合すると、どうやら次の2つのいずれかに関し社会的常識から考えての妥当性を欠いた場合、それは(正当な「クレーム」ではなく)カスハラとして糾弾されるものになるということだ。

①要求内容

②要求の際のやり方

例えば1000円のケーキを買ったところ、持ち帰って家で開けてみたら、形が崩れてしまっていた。せっかくの誕生会が台無しだ、どうしてくれるとお店に文句を言う。ここまではまぁいいとして、その代償として10万円を要求したとしたら、多分カスハラとされよう(①の問題)。

また、その要求内容自体は「替わりのケーキと迷惑料幾ばくか(特に指定しない)」といった妥当なレベルだとしても、その要求の仕方が(②の問題)「(店の人が謝っているのに)1時間以上も店頭や電話で文句を言い続けて営業を妨害する」になれば十分なカスハラだし、「SNSで拡散させるぞ」と脅かせば脅迫という立派な(?)犯罪になる。罵声を浴びせたり従業員個人の人格を否定したりするような言動もアウトだ。

厚労省の最新調査である「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査」によると、セクハラやパワハラはさすがに減少しているようだが、カスハラはこの時点でまだ増えているようだ。

ではカスハラはなぜ増えているのだろう。これについては定説がある訳ではない。しかしサービス事業者がカスハラをする要注意人物のことを「クレイマー」または「モンスター・クレイマー」と呼んで警戒する動きは、実はひと昔前からあった。

そもそも小生に言わせれば、カスハラなどという行為は、自分の人生がうまくいかなくて不満やストレスを溜めている人間がイライラを募らせた際により立場の弱い人に八つ当たりしているだけで、こうした事象は相当以前から存在したのではないかと疑っている。

もし最近になってカスハラが増えているとサービス業の最前線の人たちが感じているとしたら、一部の特殊な性格の「モンスター」ばかりでなくごく普通の生活者がハラスメントをしやすくなったのであり、その要因としては次の2つが大きいのではないか。

1.消費者の権利意識の増進

「金を払うほうが偉い」という間違った価値観が社会に浸透しているところに、消費者保護の法整備等が進んだことが、一部の消費者をつけあがらせて傲慢にしていると考えられる。サービス業の従業員を下に見ている可能性もある。

2.SNS利用の拡大

企業や従業員に対する批判や不満が容易に拡散されるようになったため、カスハラ当事者にとっての「使い勝手のよい訴求手段」として確立したといえる。直近ではこれが最大の要因かも知れない。これで手軽に満たされ得る承認欲求がカスハラ行為を助長している側面もありそうだ。

こうした情勢を受けて厚生労働省は、労働施策総合推進法を改正し、従業員を守る対策を企業に義務づける検討に入った(具体的には、対応マニュアルの策定や相談窓口の設置などが想定される)、と幾つかの報道機関が報じている。

2019年の同法の改正では職場でのパワハラ防止策を企業に義務化している。先立ってセクハラについては、男女雇用機会均等法11条1項において事業主(企業)のセクハラ防止措置義務が定められたことや、やはり2019年に改正された男女雇用機会均等法11条2項において、労働者がセクハラ相談・事実関係確認への協力等を行ったことを理由とした不利益な取扱いの禁止が定められている。

これらの施行に伴って、多くの企業で「〇〇ハラ」を社内規則で禁じる動きが広がったことは周知の事実だ。今回の厚労省の動きに伴って、企業におけるカスハラ対策も一気に進むことを期待したい。

色々とカスハラについて述べてきたが、小生が最も訴えたいのはここからだ。要は「カスハラから従業員を守れない企業はその存続が脅かされる」ということだ。

まず当たり前のこととして、日常的にカスハラの脅威が存在して、その脅威から会社・店が自分を守ってくれないような職場に行きたい従業員はいないので、早晩、離職率は高まる。

(参照:日本労働組合総連合会「カスタマー・ハラスメントに関する調査2022」

この人手不足の世の中で、人の補充はただでさえままならない。ましてや「この会社・店は従業員を守ってくれない」という口コミは今や燎原の火のように速く広まるので、求職者としてはそんなところは敬遠する。いずれ会社・店は回らなくなる。

その過程で職場の生産性は明白に下がる。先の日本労働組合総連合会の調査でもあったように、カスハラによるストレスに晒され続けると、(たとえ辞めなくて我慢していても)従業員は集中力を低下させモチベーションを失うので、職場の生産性低下に直結する。

カスハラ場面に直面した他の顧客は自分たちが後回しになることに苛立つと同時に「従業員が可哀そうで見てられない。あの会社・店ではカスハラを放置するんだ」と雇い主への嫌悪感を覚え、他の会社・店へ乗り換えることを検討しよう。悪評は千里を走る。

そうなる前に(そして法改正を待たずとも)企業は率先して従業員をカスハラから守る姿勢を明らかにしなければならない。さもないと従業員からも顧客からも選ばれなくなってしまうだろう。