アジア的価値観の意義を証明する印僑企業の躍進

グローバル

11月27日(水)の「島耕作のアジア立志伝」はタイ・バンコクに本拠を置く印僑系企業、インドラマ・ベンチャーズのアローク・ロヒア氏を採り上げた。題して「“現地化”がグローバル企業を強くする」。

印僑のアローク・ロヒアCEO(55)率いるインドラマ・ベンチャーズは、タイを拠点にアメリカ、ヨーロッパへ進出、ペットボトルの原料PETで世界トップシェアとなったグローバル企業。利益の上がらない工場を買収し蘇らせることを繰り返し成功している不思議な企業グループ。日本でいえば日本電産のような存在だが、あのような極端なモーレツ主義でもなさそう(もしそうならタイ人はついてこない)。

ロヒア氏はタイで初めてPET事業を手掛けるインドラマ・ポリマーズを1995年に立ち上げ、2005年に株式公開。2010年2月に同社を上場廃止し、代わりにその親会社のIVLをタイ証券取引所(SET)に上場させた。IVLはSET50社の1つとなっている。デリー大学卒業後、30歳でタイに移住した。奥さんはIVLのパッケージング部門を率いるそうだ。

IVLはタイの他にインドネシアや欧米など15ケ国に42の工場を持ち、売上高は年6,800百億円。ロヒア一族はラージャスターン州の出であり(ロヒア氏自身はコルカタ出身)、この州は多くの印僑の出身地として知られる。現代、全世界の印僑は25百万人いるといわれる。ロヒア氏の父も印僑の大物だ。事務所にはガネーシャ神の置物もあり、いかにもヒンドゥー教徒らしい。

経営戦略は「現地化」。印僑事業家の父の教えを胸にタイで起業。現地の文化や習慣を徹底して学び、権限委譲することで従業員の自主性を高め、生産性を向上させるという。理屈は分かるし、日本企業も日本ではできているが、東南アジアで実践できているところは多くない。

IVLのオランダ工場の前身は米企業。トップダウン方式で、一方的に本社から命令を下していた、この経営の上手くいかない米企業をIVLは買収、まもなく業績を回復させる。グローバル企業による買収後には従業員のリストラや賃金カットとなりがちだが、IVLではそれらをしなかった。それが現地人のやる気を引き出すことになった。人を減らすよりも、どうやって仕事を増やすのかを考えたとのことだ。

氏のせりふは「情熱、勤勉さ、忠誠心は会社の命」「短期的でなく長期的戦略で利益を得る」など、我々にとって馴染み深いもの。父親からは「一番重要なのは、人から信頼されること」と教わったという。ロヒア氏の人間的魅力と、こうした長期的視野に基づくアジア的な価値観への共感による一体感が、結局はこの企業の躍進の決め手なのかも知れない。