経営コンサルティングという仕事をしていると、色々なタイプの会社における意思決定のやり方や速度感の違いを目の当たりにすることが多い。一般に言われる、「日本の大企業は慎重で意思決定が遅い」は概ね当たっているとは思うが、その実際は会社によって相当異なる。
大半の日本の大企業が「意思決定が遅い」のは、決定権を持つ人が複数いて、彼らが責任を回避しようとするのを部下が説き伏せるという構図になることが多いからである。本来なら「試しにやってみようか、これくらいのリスクなら」という勇気を誰かが持てば進む話でも、各意思決定者がそうした勇気を発揮せず、「こうした面はどうだ、前例はあるのか」などと重箱の隅をつつくことで意思決定は先送りされる。
ビジネスの世界だから、全てが明らかになっていたらとっくに競争者が先にやっている。不透明なリスクを抱えながらも、そのリスクをうまくマネッジすることで、それに見合ったリターンを得ることができる。本来メリットが大きいビジネス機会なのに、リスクを極小化することに時間を掛け過ぎるため、リターンもどんどん小さくなってしまい、ある時点を過ぎると却って「出遅れリスク」が急速に増大する。そのことを理解していないサラリーマン管理職・役員が日本の大企業には多過ぎる。
その点、大企業といえどもオーナー企業の経営者やその意図を汲んだマネジャー達はそうしたリスクをとる感覚が備わっているために意思決定が速い。同じく大企業になってもベンチャー感覚が失われていない新興企業の場合も、そうした「リスク‐リターン」とスピードとの関係をよく理解しているので、意思決定が速い。彼らは筋の悪い話なら即座に断る。筋のよい話なら、「まず部分的にやってみる。それでうまくいけば前に進むし、ダメなら止めればいい」と考えて、とりあえず前に進もうとする。単に意思決定を先送りすることはまずしない。
もう一つ、大企業でサラリーマン的文化でありながら意思決定が速いケースも存在する。仮に意思決定に間違いがあっても、それに伴う損失の尻拭いを取引先に押し付けることで、自分たちのリスクを回避しようとするため、素速く(多少いい加減でも)判断できるのである。これは特に小売企業に多いようだが、実にタチが悪い。
最近も知人から、ある小売グループ傘下の企業のシステム構築に伴う問題含みの話を小耳に挟んだ。グループ企業のシステムを統合したり再構築したりすることで、システム関連コストを大幅に引き下げるプロジェクトが、その知人の大手システム会社を軸に進行中だ。そこで、中核業務システムをホストコンピュータ・ベースからERPパッケージ・ベースに替えることを検討するように、という指示がその小売りのシステム責任者の役員から出ていたが、ある小規模なシステム開発会社が突如指名されてそのERPシステムの構築を請け負う話になってしまったそうだ。不思議なのは、そのシステム開発会社はそんな広範囲で大規模なシステムを構築した経験がなく、かなりのリスクを見込んでコスト見積りも相当な上積みをしていると見られている。
穿った見方かも知れないが、件の役員はその小規模なシステム開発会社を指名することで、バックマージンを要求しているのかも知れない。そしてシステム構築に失敗しそうになったら、知人の大手システム会社に尻拭いをさせればいいと考えているのではないか。知人は今、戦々恐々としている。