「看板に偽りあり」はなぜ繰り返されるのか?(まとめ編)

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偽装問題は上からの命令や手続き・罰則の強化では根絶しない。それは悪しき慣例や実態を正当化する、現場組織の価値観を転換しない限り、形を変えて繰り返される。

小生がこれまでコラム記事で指摘してきた食材の偽装表示やクール便の常温輸送。ユーザーの信頼を裏切る偽装行為が身近なところでも起きている。JR北海道の手抜き検査や虚偽報告も同種・同根の問題だ。

「いけない」と分かっているはずなのに、急場しのぎにやってみて、バレないと少しずつ大胆になり、それが広範囲に繰り返される。人が偽装に手を染めるパターンはどうやら似たようなものだ。問題は、一個人の不祥事ではなく、組織的な偽装が現場に蔓延していたことだ。

これはコンプライアンス問題として重要視されなくてはならない。そして、こうしたコンプライアンス問題が起きた企業では、往々にして弁護士や会計士が呼ばれて、手続きや罰則の強化が図られる。

でもそれは当面の問題表出を防ぐことには役立っても、本質的な問題解決にはならない。事実、そうした防止策をとったはずの会社で(形や場面は違っても)同様の問題が繰り返されている実態がある。それは価値観が切り替わるところまで踏み込んでいないからだ。

なぜ「価値観が切り替わる」という大仰な言葉をわざわざ使うかというと、これらの偽装行為を行っている現場の人たちの意識の上では、往々にして「確かに客に対してはごまかしている側面があるけど、会社のためなんだ、仕方ないんだ」と正当化されているからだ。

偽装を根絶し、違う形でも二度と繰り返させないためには、偽装が顧客からの信頼を裏切る行為であり、ひいては会社を貶める「悪」なのだと、現場の価値観を転換しなければならない。

「価値観の転換」があって人は初めて「このままではいけない、変わらなきゃ」と理解・納得し、どう変わればいいのかを学び始める。その変革のプロセスは簡単でも一律でもなく、断固として推し進める強烈なリーダーシップが必要とされる。

それはちょうど、しまむら(本社:さいたま市)の先代経営者がバイヤー諸氏に対し、それまで当然だった「返品」や「再値引き」交渉を禁止したときのように。または、印刷業の革新者と呼ばれるグラフ(本社:兵庫県加西市)の現社長が、それまでほぼ100%だった下請け仕事を引き受けないと決めたときのように。

記事読者の大半は今回の偽装騒動の渦中にいるわけではないだろう。しかし完全には「対岸の火事」視できない方も少なくないのではないか。もし自分の属する組織にも同様の問題が生じる可能性を感じている(もしくは既に生じている)のであれば、自ら率先するか、リーダーを担いで、いち早く対処に動いて欲しい。

我々のような変革コンサルタントは、そうした意思と覚悟を持ったリーダーやイノベータが反対勢力に押しつぶされたり計画不足で挫折したりしないよう、企業体質に合わせて「作戦」を一緒に練り、実行過程では先々を見据えて「陥穽」のありかを警告する。弁護士のような国家資格による権威ではなく、組織心理への理解と変革をもたらすノウハウによってお役に立ちたいと願っている。