(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************
<<「緊急事態宣言終了は早すぎる」という声があるのは承知している。しかし体力に乏しい零細飲食店にはもうぎりぎりのタイミングだったはずだ。何とか生き延びた店にも幾つか大きなハードルが立ちはだかる。その最たるもの、そして最も腹立たしいものが、大した罪の意識もないまま繰り返される「無断キャンセル(No show)」だ。>>
零細な飲食店は元々の利益体質が十分でないうえに財務余力の乏しさや跡継ぎ不在などのため、すでに多くの飲食店が全国で廃業もしくは倒産を余儀なくされている。そうした事態に陥ることを避けてなんとか生き延びた飲食店にとっては、本当に待ち焦がれた「営業再開」だ。
でも再開すればしたで、悩ましい問題も生じる。飲食店の場合には食材費の占める割合(=原価率)は平均で3~4割程度と言われるほど高く、しかも長期保存が効かないものが大半を占める。したがって営業再開後、どれほどのお客さんが来てくれるのかという難しい予想を大きく外すと痛手も大きい。
予想を大幅に下回る来店客数だと食材在庫を無駄に腐らせてしまう可能性があり、逆に食材仕入れを絞り過ぎてしまうと「売り切れ」という機会損失というだけでなく、せっかく来店してくれたお客さんの満足度を下げるリスクを負ってしまう。
それに加え、無断キャンセル(No show)という大問題がまだ解決されていない。昨年末の忘年会シーズンには相当議論を呼んでいたが、コロナ騒ぎで話題ごと吹っ飛んでしまった格好だ。
書店にとっての万引きと同様、飲食店にとっての無断キャンセルほど腹立たしくやるせなく、そして経営に痛い仕打ちはない(ブログを参照)。飲食店にとって無断キャンセルは3重の苦しみをもたらす。
第一に、消えた予約分だけ売上が蒸発する(これは通常のキャンセルでも同じ)。これだけでもがっくりくるのに、無断キャンセルの場合にはそれに大きな痛手が上乗せされる。
第二に、失った売上を回復する手段がほとんどない。予約がなければ他のお客さんを受け入れるところを、予約が入っているがために断わらざるを得ない。それで「待てど暮らせど」客は現れないのだから、店の人は非常に悔しい思いをする。せめてキャンセルの連絡が前日にでも入っていれば当日の来店客を受け入れることができるのだから、非常に罪作りだ。
第三に、仕入れた食材の多くが無駄になってしまう。予約客のために下ごしらえしていた食材、ましてや時間をかけて調理していた料理はことごとく無駄になってしまう。予約の内容次第では、仕入れただけで使われなかった食材は他の料理に転用できることもあるが、それもタイミングを外せば新鮮さを失って結局廃棄せざるを得ない。
先に触れた通り、飲食店というのは利益率の低い業種だ。そんな飲食店にとって食材を無駄にしてしまうのは非常に痛い。
さらに予約人数が多い場合、店側ではスタッフを臨時に増強する必要に迫られるが、その人件費は無断キャンセルの場合にはまるまる損失につながる。この場合、4重苦だ。
ではなぜ消費者は無断キャンセルなどという「非道なこと」をしてしまうのだろう。
昨年、ある民間機関が消費者に対し無断キャンセルの経験と理由をアンケートしたところ、1割以上の人が「無断キャンセルをしたことがある」と回答している。
無断キャンセル経験は20~30代が圧倒的に多数を占めており、グルメサイト経由での予約の場合がやはり多数を占めるという。要は、手軽に予約できる分だけ、気軽に無断キャンセルしてしまっており、「非道なこと」をしているという意識はほとんどないのだ。
正直、「約束を守らない日本人がそんなに多いのか?」と信じられない思いだ。我々の世代だと、そもそも複数の店をダブルブッキングすることは考えられないし、仮に「キャンセル待ちしていた本命の店の予約が取れたので次善の店をキャンセルする」といった状況なら、先に予約しておいた店に迷惑をかけたくないので、何はさておきキャンセル連絡をするだろう。
もしかすると、無断キャンセルするような輩は飲食店への予約を「約束」と捉えていないのかも知れないし、自分の身勝手な行為が店に及ぼす「迷惑」を意識すらしていないのかも知れない。
こうした人々はそもそも想像力が乏しくて、すべての事柄を改めて丁寧に説明されないと、物事がどう影響を及ぼすのかを自分の頭では考えることができないのではないだろうか。しかしそういう「他人の迷惑に鈍感」な連中がスマホで手軽に、グルメサイト経由で予約できてしまうことで被害が確実に拡がっていることは間違いない。
では飲食店としては無断キャンセルを防ぐのに有効な方策はあるのだろうか。業界では幾つかの方策を試行錯誤している。
本来は無断キャンセルした人から一定の金額を徴収するのが筋だ。宿泊業などは既に実践しているが、飲食業の多くはキャンセル料徴収にはまだ踏み切れていない。SNSで何と書き込みされるかが怖いというのだ(実際、「当日キャンセルしたらキャンセル料を請求された。態度悪い」と非難する理不尽な書き込みを目にしたことがある)。
ではどんな代替手段があるだろうか。最も現実的なものは無断キャンセルを防止する機能を組み込んだ予約サイトを利用することだ。
予約時にクレジットカード番号を入力させるところ、デポジットを預かるところ、自動リマインド機能で確認が取れない場合には自動的にキャンセルする設定など、やり方は幾つかある。そしてNo showだった時には一定のキャンセル料を徴収することを明確に宣言するだけでも、無断キャンセルする人はかなり減るだろう。
とはいえ、メジャーな予約サイトでもこうした機能を具備していないところがまだ多いことも事実だ。ましてや予約サイトの信頼性に疑問も生じている現在、予約サイトに頼りたくない飲食店も少なくないだろう。
その場合は店自身が予防策を講じる必要がある。つまり予約客に前日にでも電話して、予約意思を確認するのだ。面倒だが、一定以上の効果は期待できる。最近では、予約内容の確認メールを予約者にSMSで送ってくれる割安なサービスも出てきているので、その利用も一法だ。
実際、先のアンケートでも明らかになっているが、「予約したことを忘れてしまっている」ケースが30%以上あり、「店や日にちを間違えていた」も10%以上、「電話するのが面倒・時間がない」などという理由も30%近くあるのだから、意思確認の連絡は意外と効果があるかも知れない。
ここまで述べてきたように、無断キャンセルという約束違反は非常にたちが悪いし、利幅の薄い飲食店にとっては致命的なほど重い。「気楽に無断キャンセルする」連中がこれまであまり声高に断罪されなかったのが不思議なくらいだ。
苦心惨憺して何とか再開にたどり着いた店でも、無断キャンセルが一つ発生するだけで店主の気力の綱が切れてしまうことは十分考えられる。そう、あなたや友人の「うっかり」した無断キャンセルが店の息の根を止めることがあり得るのだ。是非、この「無断キャンセルが罪作りなこと」を周りの人にも伝えて欲しい。