「日産サクラ/三菱eKクロスEV」の衝撃と素朴な疑問

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かねてウワサだった、日産と三菱による新型EV軽自動車がデビューしました。車名は日産「サクラ」、三菱「eKクロスEV」です。日産が設計開発して、三菱の水島工場で生産されます。

そのパッケージレイアウトは既存の軽ハイトワゴン(日産は「デイズ」、三菱は「eKワゴン/eKクロス」)とほぼ同じです。日産サクラの内外装デザインはほぼすべて専用ですが、三菱版のデザインはガソリン車のeKクロスと同じです。

2021年8月に公表されていた「電池容量は20kWh、補助金を想定した実質購入価格は約200万円」という目標を達成しています。上級グレードは290万円台ですが、普及版グレードは230万円台です。

230万円台の普及版グレードの場合、国から出る本年度の補助金(軽EVは最大55万円)を差し引くと、実質180万円台となるのです。さらに独自の補助金を出す自治体も少なくなくて、たとえば東京都では、EVの個人購入に対して本年度は45万円の補助が出ます。これらを合計すると、東京での購入の場合の負担は実質的に130万円台という魅力的な金額になるので、結構評判になっています。

自動車関連税やガソリンよりかなり安く済む電気代などを考えると、トータルの経済性はガソリン車とかなり拮抗しますし、東京都など補助金が十分出る地域で買うなら、今回のEV軽のほうが割安かも知れません。日産も三菱もすごく頑張ったと思います。

これまで、EVは販売台数が増えないと利益が出ないとされてきたのですが、今回の新型車は販売台数が少なくても「1台当たりの利益を確保できている」と、日産関係者の証言があります。かなり工夫されたようです(以下、報道された情報に基づきます)。

設計・開発面ではまず、日産の軽ガソリン車「デイズ/ルークス」や三菱自の同「eKシリーズ」に適用する軽自動車用プラットフォーム(PF)を共用することでコストを抑えているのが第1点です。このPFは元々ガソリン車とEVの両方に適用できるように開発されているため、大きな改良を加えることなく電動パワートレーンや電池パックを搭載できるとのことです。

電動パワートレーンでも積極的に既存システムを流用している工夫が第2点です。インバーターは新たに開発したようですが、駆動用モーターには日産のハイブリッド車「ノートe-POWER」や、三菱自のプラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」などに搭載する小型モーターを使ったとのことです。減速機は日産のEV「リーフ」のものを流用しています。

EVのコストで大きな部分を占めるリチウムイオン電池は、中国系のエンビジョンAESCグループ(神奈川県座間市)から調達し、日産リーフと同じ電池を使うことになります。これが第3点。

要は、現行の電動車両と基幹部品をできるだけ共有することで新型車の設計・開発コストの増加を抑えたことが、量販向けお手頃グレードで230万円台という驚異の価格を実現できた大きな要因です。

と、ここまでは日産と三菱の現場努力を大いに褒めました。でもここからはその上層部の戦略にケチをつけたいと思います。

戦略的には、EV化によるコストアップ(これは電池とモーター周りの部品の量産効果がまだ小さいことが主要因)が避けられない現実を踏まえると、EVに本気で注力して収益を上げるにはそのコストアップ分だけ値上げしても売れる商品に仕上げることが最重要です。

EVの環境価値と、クルマとしての価値(スムーズな加速&ドライブ性能)を認めて割高な値段を喜んで受容してくれる顧客、それはお金持ちです。世界的にみても、無茶苦茶割高だった初期テスラを喜んでわれ先に買ってくれたのは、それまでフェラーリやランボルギーニを買っていた超富裕層です。その後、テスラも少しずつまともな値段に近づけていくにつれ、購買層は普通の富裕層、普通のお金持ち、さらに小金持ちへと広がっています。

つまり収益を挙げながら着実にEVの製造コストを引き下げるためには、高い値段を喜んで受容してくれるお金持ちにアピールできる高級車じゃないといけない訳です。「利益=利幅×台数」のうち台数は小さくても利幅を大きくできるのが高級車の魅力です。

それに対し、軽自動車をベースにしたEVでは「利幅×台数」のいずれも期待できないのです。

残念ながら今回の日産「サクラ」と三菱「eKクロスEV」はEV軽でありながら販売台数が小さくとも「1台当たりの利益を確保できている」というのは大したものですが、要は「損はしない」程度であって、利幅はかなり小さいのでしょう。

補助金無しで買ってくれる顧客はほとんどなく、いわば邪道です。しかも独自のエコカー補助金をたんまりと出す一部の地域でしか通用しない邪道です。

東京でわざわざ軽の、しかも日産・三菱のEVを買う人なんて多くはないですし(商業用にはありますし、都下ならそれなりにいるでしょう)、他には同様の補助金を出す自治体で、田舎でガソリンスタンドが減りだしている地域、といった特定条件が重なっていないといけません。これだけ開発陣が工夫を重ねてくれたのに、台数を稼ぐのは結構厳しいと考えざるを得ません。

つまり利益=利幅×台数で考えたとき、両方の数字が小さいので掛け算の結果は小さいままなのです。 2009年に三菱がi-MiEVを、2010年に日産がリーフを発売して一時は世界をリードしながら、まったく失敗に終わった経験からの苦い教訓を、(現場はそれなりに踏まえているとしても)両社の経営陣は十分に理解しておらず、似たような過ちを繰り返すのではと指摘せざるを得ません。