(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************
「日本型ケアファーム」を普及させるため、日本の複雑な福祉制度と土地事情のもと、「高齢者福祉」と「障がい者福祉」にまたがる挑戦を続ける人たちについて紹介したい。
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オランダでは農業経営のバリエーションの一つとして捉えられており、ドイツでは医療行為を中心とした施設といった位置づけだという。ヨーロッパでは国ごとに特徴的なケアファームが発展しているとのことだ。
高齢者住宅としてだけではなく、心身障がい者の就労の場にもなっており、しかも認知症や精神障がいに対する治療施設としても機能している。よく知られていることだが、農作業や動物とのふれあいにはメンタルヘルス面の課題の緩和と癒しの効果があるのだ(グリーンセラピー、アニマルセラピーなど)。
こうした欧州で発展したケアファームという新しい福祉施設の形と、日本の制度を融合させた「日本型ケアファーム」の普及を目指し、ケアファームの企画・開発・管理を日本で行っている存在がある。都市緑地株式会社が運営するケアファーム ジャパンである。
ケアファーム ジャパンのパンフレットによると、「日本型ケアファーム」が求められる背景として2つ挙げられている。すなわち、
(1)日本の高齢者住宅は「介護度」と「費用」の2軸だけで入居する施設の選択肢の範囲がほぼ決まってしまうが、「生きがい」(またはライフスタイル)という視点の軸が欠けている。
(2)障がい者の雇用については大企業を含め安定的な職場の提供が社会的に求められているが、現状では労働条件や職場環境、やりがいに関する改善余地が大きい。
ケアファーム ジャパンでは「日本型ケアファーム」によりこの社会課題を一石二鳥的に(もしかしたら一石三鳥を狙っているかも知れないが)解決しようとしている(詳細は関連する情報サイトで)。
具体的には、様々な事情で農業を続けられなくなった都市隣接地に、農場併設の低層木造高齢者住宅を作り、その農園で障がい者に就業してもらうと同時に、市民農園を併設して高齢者・障がい者・市民が交流、相互支援するコミュニティの場をつくる、というものである。大企業には障がい者雇用義務の解決とESG投資の観点からの参加協力を呼び掛けている。
「日本型ケアファーム」がどういうものかは、国土交通省の「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業」に選定された埼玉県所沢市での「狭山ヶ丘ケアファーマーズ」が体現の場となっている(詳しくはケアファーム ジャパンのサイトで)。
「デジ畑」というアプリによって今、畑に誰がいるかがわかるようになっている。会社の管理者や指導者がいるかどうかを確認してから来園してもらえれば、安心して参加しやすくなるし、子どもさんの安全確保にも役立つという仕掛けだ。
それにしても、ブログを読むと参加者の方々が楽しんでいることが伝わってくる。近所にこうした施設がある人たちは実にラッキーだ。
こうした「日本型ケアファーム」を推進するケアファーム ジャパン、その運営者である都市緑地株式会社の代表取締役が太田裕之氏だ。
太田氏は株式会社シスケア(福祉施設の企画・設計・監理が主業務)の創業者で、学研ココファンHDに全株式を売却、学研グループに参画。学研ココファンの取締役などをされていたが、その地位に安住することなく都市緑地を創業して新しい社会課題への挑戦を続けられている。
「儲け」のためだけならこんな大変なことに取り組まないことは、少しでも起業経験があれば自明だ。「中高年起業家の星」とお呼びしたい。