日本の2023年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す値)が1.20と過去最低を記録したことが、5日の厚生労働省の発表で判明しました。「なんと!」なのか「やっぱり」なのか、人によって違うとは思いますが、私の感想は後者でした。
2023年の1年間に生まれた日本人の子どもの数は72万7,277人で、2022年より4万3,482人減少し、1899年に統計を取り始めて以降、最も少なくなりました。深刻です。
「出生数=出産適齢期にある女性数×出生率」なので、生まれてくる子どもの数を増やそうとしたら、若い女性の絶対数を増やし、この出生率を上げる必要があります。
この出生率を悪化させている直接因子が、①未婚率の上昇、②晩婚化の傾向、③結婚してから最初の子どもを生む年齢が遅くなる傾向、④子どもを一人生んだ母親が2人目以降を作らない傾向、の4つです。
子どもを生むか否かは未婚/結婚に本来関係ないのですが、日本は未婚で子供を生む割合が極端に少ないので、②が重要視されます。また、①と②、③と④は密接に関係します。
現在、岸田政権および自民党を中心に検討・実施されてきた「異次元の子育て支援策」というのは、この④を改善することだけに注力しています。でもそれでは対象が限定されるため日本全体では「焼け石に水」で、「投資対効果」が低いことは各所で指摘されている通りです。私も何度か指摘してきました。
ではなぜ与党政治家が①②に真剣にならないのか。それはシンプルに「票につながらないから」です。だって未婚の男女の支援をしても自分たちに投票してくれる可能性はそれほど高くないですよね。でも結婚して所帯を持って子どもを増やせるようになったら保守化しますから、自民党に理解がある層になる可能性が高まります。
つまり自民党と岸田政権は自党のために④に多大な予算をぶち込むことを高らかに謳っている訳です。でも今回の「出生率1.20」ショックは多くの国民・識者の背筋をぞっとさせていますから、与党政治家に対する突き上げも増々強くなるのではないでしょうか。①②についても真面目にやれ、と。
では①②を改善するにはどうしたらいいのでしょう。これはもう随分と検討され尽くした話です。要は結婚したい、結婚して子どもを作りたい若い人たちが、今は経済的に不安または本当に余裕がなくて結婚できないという状況を解消しなきゃいけないのです。
すると「今の賃上げを続ければいいじゃないか」という議論も出てきそうですが、それだけでは不十分です。というのは、多くの若い人の給与の絶対値が都会生活に対しては低すぎるのです。
少なくとも、非正規雇用の人たちを正規雇用に切り替えて、基本給という母数と賃上げ率という角度の両方を上げないといけないのです。サービス業などで安い給与で懸命に働いている若者の賃金を加速度的に上げないと間に合わないのです。
それに加え、都会での生活費が高過ぎるのです。特に家賃が高過ぎます。他の物価も高過ぎます。この解決法は、都会から地方に人口を大量に流出させることしかなく(実際のところ東京を始めとする大都会に住んでいると出生率は大幅に下がりますから、その逆転が最も効果的なのです)、そのためには地方に職場をたくさん作ることです。
具体的には、①IT関連企業が「従業員が地方でテレワーク勤務できる」ように勤務体制を思い切って切り替えること、②非IT企業(とりわけ企業グループを形成している大企業)がこぞって地方に移転すること、の2つです。
現実的にいえば、①はそれほど難しいことではなく、NTTグループは結構真面目に取り組んでいます。こうした企業努力に対し政府は褒美をあげないと加速しません。そこは政治家に真剣味が足らないところですね。
もう一つの②は正直、簡単ではありません。淡路島に本社を移転させたパソナグループは大したものですが、後に続くところがほとんどありません。
国の公共事業や国家的イベントに応札するためには「従業員の半分以上が東京都・横浜市・名古屋市・大阪市以外で勤務していること」といった条件でも付けないと、東京集中の傾向とその弊害は直らないと思います。
それにしても事ここに至っては普通のことをやっていても「焼け石に水」です。抜本的対策は、最初に提示した算式の「出産適齢期にある女性数」を大幅に増やすことです。その手段は移民政策だと私は信じます。
「外国人が周辺に増えるのは嫌だ」とか「移民が増えたら社会不安になる、日本のよさがなくなる」などと、自分たち自身が社会不安を煽る発言をするネット民や政治家が減りませんが、そもそもこのままでは日本社会が成り立たないのです。贅沢を言っていられませんよ。
PS ちなみに来月のAbema討論番組『For Japan~日本を経営せよ』のテーマは「少子化対策」のようです。思い切り議論したいですね。