「働き続けたい職場」の実現に知恵とカネを使え

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「うちの業界は3Kだから」と端から諦めているようなら、人材獲得競争での負け組は確実。思考停止せずに知恵を働かせ、要所にカネを使えるかどうかが分かれ目。

某大手物流会社では、ドライバー不足のために拠点立ち上げ計画の延期を余儀なくされました。この会社はドライバー確保のために広告費をかなり使っている上に、傭車(他の運送業者からトラック・ドライバーを一時的に借り受けて配送してもらうこと)で凌いでいるのが実情です。しかし別の中堅物流会社では、総合的な労務・福祉対策により自社契約のドライバー確保にめどを立てつつあります。

多忙を極める建設関連業の経営者が雑誌記事でこぼしていました。「熟練工になれば年収1000万円も珍しくないのに、みんな大学に行って高卒のいい人材はなかなか来ない。仕事はあるのに」と。地元のハローワークでは常態的に応募を掛けているようですがほとんど効果はなく、事業拡大に急ブレーキが掛かるのは間違いないようです。でも同業種で、スポーツ助成に力を入れることや学校とのパイプを作って事業内容をきちんと説明することで、大学卒や高専卒を含めていい人材を確保している会社も幾つかあります。

ある地方病院の関係者が危機感を口にしていました。「看護師不足が深刻。看護師専門の人材紹介業に依頼してもこの頃は難しい。確かに勤務が不規則で責任も重い職種なのだが、結婚・出産で退職した人たちの後任を見つけられないまま、ギリギリの運営を続けている」と。でも鳥取大学医学部附属病院では、敷地内に託児所を設けるなど様々な子育て支援制度を充実させることで、看護師のなり手を確保しています。補充が必要となれば、同病院の福祉の充実ぶりを知っている看護師の応募が他県からも殺到します。

知人のITコンサル会社経営者の悩みも深刻です。マイナンバー制度対応など、ITシステム開発の仕事の打診は山ほどあるのに、プロジェクト・マネージャーはもちろん、エンジニアもプログラマーも全然足らないというのです。これ以上手を広げるどころか、今引き受けている仕事ですら綱渡り状態だといいます。毎週どこかでメンバーが病気やうつ状態になってしまい(この業界、相変わらずこれが多いようです)、人材紹介会社に片っ端から連絡して「札束で頬を叩く」ように補充を依頼するのが日常業務になっているそうです。

でも幾つかの中堅ITシステム会社では元々仕事に無理がないように組んでいるため、そうした「うつ発症が常態」という悪習からは無縁です。しかもそれらの会社では子育て支援制度等が充実しているうえに、子育て期間でも自宅で柔軟に仕事を続けられるため、退職率は業界平均より圧倒的に低いのが自慢です。

ここまで「3K職場」の典型業界を幾つか見てきました。いずれも大多数の企業は人手不足の深刻さにたじろいで、従来の延長線上の手段以外には頭が回っていないようです。でも目先の人手確保のために人材紹介会社や外部業者へ余分なお金を支払っている「泥縄」的やり方の愚かさを、もっと噛みしめてしかるべきです。そんなカネがあるのなら、社員に還元すべきです。

知恵を使って人材確保に成功している事例が多々あるのですから、それらを研究すべきです。「うちでは(経営者の頭が固いから)同じ策は難しいですね」と思考停止になる担当者が多いかも知れませんが、真似をしろとは言っておりません。自社でも可能な策を考え出せばよいのです。それら「成功組」だって、先例に倣ったわけではなく、ましてや最初からすぐに思いついたわけでもなく、試行錯誤の中から自分たちのやり方にたどり着いたのですから。

また、契約社員ではなく正社員として採用することの「威力」は絶大です。多くの優秀な契約社員は安定的な正社員の機会が他所にあるなら移ることをためらいません。今の経営者の多くはデフレ時代を長く経験してきたため、「賃上げ」および「正社員増」には条件反射的に警戒感が強いようです。しかし今はすでに人手不足時代なのです。頭を早急に切り替えないと人材獲得競争に敗北し、大変なことになりかねません。

でも一番大切なことは、今いる人材が辞めざるを得ない状況を作らないことです。人材募集~面接~オリエンテーション~教育と、長い時間および多大な人手を掛けて手塩に掛けてきた人材に去られることほど、それまでの投資を無駄にして空しいことはありません。

結婚・出産や異動を機にというだけでなく、社内の人間関係や仕事上の過度なストレスなど、社員が辞める原因は多岐にわたります。「去る者は追わず」と高姿勢を続けるのではなく、内部のどこに原因があるのか、改善の余地はないのかと常に考えることで「働き続けたい職場」は実現するものです。

大量採用と大量離職を繰り返す職場には未来はありません。日本社会にとっても壮大な無駄でしかなく、「社会の敵」視されるほかありません。逆に、「働き続けたい職場」を実現すれば、それは人材採用の場でも確実に魅力的な要素になります。「泥縄」的で本質的でない無駄なコストを削る代わりに、効果的な「生き金」を使うことで「働き続けたい職場」は実現できます。