物流2024年問題の解決には業界再編が不可欠

社会制度、インフラ、社会ライフブログ

(以下、コラム記事を転載しています) **************************************************************************** 

物流2024年問題の解決に向けて物流各社の改善努力は続いているが、抜本的な解決のためには業界再編による体力アップとネットワークの拡大しかないのではないか。

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物流2024年問題。働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する問題の総称である。

とりわけ他の業態よりも労働時間が長いとされるトラック事業においては、労働時間が制限されることで、ⅰ)1日に運ぶことができる荷物量の減少、ⅱ)トラック事業者の売上げ・利益の減少、ⅲ)ドライバーの収入の減少とそれによる担い手不足などが懸念されている。

このⅰ)は荷主とその背後にいる消費者に影響をもたらし、ⅱ)はトラック事業者に打撃を与え、ⅲ)はその従業者であるトラックドライバーの生活を左右する、という構造になっている。「皆にとって悩ましいが、ドライバーの健康ひいては事故防止の観点からの苦渋の改革」という訳だ。

対策なしの状態で2024年4月1日を迎えたら約3割の荷物を運べなくなると言われていたが、さすがにトラック運送業界も危機感を強め、この2~3年ほどは矢継ぎ早に対策に取り組んでいた。

一人のドライバーで運べる距離が短くなるため、例えば長距離輸送の場合には①2人のドライバーで交代しながら運転する、②複数のドライバーで同じトラックを乗り換えてリレーする、などの工夫を行っている社が増えている。③1回あたりの輸送量をかさ上げすべく、大型トラック2台分の輸送が可能な「ダブル連結トラック」の導入を進めている運送会社も少なくない。

②については、例えば東京~大阪間での往復便が多い輸送会社の場合、東京から運転してきたドライバーは中間地点の浜松辺りで、大阪から運転してきたドライバーとトラックを交換することで、再び東京方面に帰ることができる。大阪から来たドライバーも大阪方面に帰ることができるという具合だ。

「これは俺のトラックだ」という愛着心が強いトラック野郎たちに抵抗はあるだろうが、「毎日自宅に帰ることができるなら」と受け入れるドライバーも少なくないはずだ。

それらに比べたら地道だが、配車効率や積載効率を上げるため、新たに配車システムやナビゲーションシステムなどのITを導入したり既存のシステムを更新したりして対処しようとする会社も多いようだ。

ただし、こうした思い切った対策を講ずることができるのは大手の運送会社に限られているのが実情だ。

たとえば、先に挙げた「複数のドライバーで同じトラックを乗り換えてリレーする」方式を採用できる運送会社は、それだけ広域のネットワークを自社でカバーしていて、頻繁かつ十分な量の双方向の運搬が発生していることが条件となる。そもそもいずれの策も相当な投資およびコスト増を伴う。

また、ドライバーに荷積みをさせる荷主がまだまだ多いのが実情だが、本来である「荷主側が荷積みをする作業員を確保する」ことで、ドライバーの作業時間を減らして運転に集中させる取り組みに協力するまともな荷主も現れてきている。

それでも大きな課題としての「荷待ち時間」問題*は、物流センターの大幅改修と予約・連絡システムの刷新が求められるため、解決できていないところが大半だ。

* 積み込み・荷下ろしの順番待ちのために荷主や元請け会社の物流センターで長時間待たされる実態があり、結局トラックで走る時間が削られているという問題のこと。

一番肝心なこととして、トラック事業者は、確実にコスト増になるのを運賃価格に転嫁できるよう、荷主企業(および元請け会社)との間で交渉を進めてきている。しかし全般的に荷主-運送会社の間での力関係は圧倒的に前者が強く、大手事業者を除いて全体的にはなかなか価格転嫁は厳しいのが実情のようだ。

個々のトラック事業者の努力でコスト削減できる余地はかなりやり尽くしており、それでも新たに課された労働時間制約の下で今の物流量を捌き切るためには、あとは「業界再編」を大胆に進めるしか現実解はないのではないか。

今の「運送会社に対し荷主が圧倒的に有利な交渉力を持つ」構図になっているそもそもの原因は、1990年にいわゆる物流2法(貨物自動車運送事業法・貨物運送取扱事業法)が施行されて経済的規制が大幅に緩和されたため、小さな事業者が増え過ぎたことにある。

そして彼らの大多数は大手・中堅事業者の下請けに入り、この業界での多重下請構造が成立した。そしてその構造下では小さな事業者はピンハネされた運賃しか受け取れず、しかも十分な荷量を確保できない中小事業者は価格ダンピングで仕事を確保する策しか思いつかない。

供給余力が一挙に増えたため、無茶な条件を平気で提示し、「嫌なら他に頼むけど、いいの?」と高圧的な振舞いをする荷主や元請運送事業者がむしろ一般化してしまったのだ。実際のところ、荷主企業の物流部門といえば「いかに運送会社を叩いて物流費を削減できたか」で評価される時代がずっと続いてきた。

そのしわ寄せが下請事業者の各ドライバーに対し、不当に安い賃金での長時間労働という形で及んでいたのがこれまでの業界実態だ。

だから今回の「2024年問題」を解決しながら運送会社がまともな経営で利益を出し、ドライバーが人並みの生活をできるようになるための解決策は、ズバリ「業界再編」しかないと考える。

つまり中小事業者同士が合併して大きくなるか、大手・中堅事業者が中小を吸収買収してさらに大きくなるのだ(中小同士の集団が資本の独立は維持したまま手を結んで広域連合体を形成するという方法も理論上は考えられるが、各社の利害調整が難しいので現実的ではないと思われる)。

「お山の大将」でいたいという中小事業者の経営者の気持ちはよく分かるが、中小同士での我慢比べで互いの体力を消耗させるばかりで先行きの展望がないのでは、続ける意味がない。そもそも従業員と経営者の生活が成り立たなければ話にならない。

日本の物流がパンクする前に、トラック事業者が各種対策のために必要な投資やコスト増に耐えられる体力を確保しつつ、ネットワークの範囲を拡げ、荷主との交渉力を大きく引き上げるには事業再編しかないと小生は考えるが、いかがだろう。