オフィス労働生産性を向上させるために(7)『働き方改革』の仕上げはICTにて

BPMブログ

(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************

<<前回の第6弾の記事では、『働き方改革』には3つほどの異なる狙いがあり、自社の課題や取り組み成熟度によって、どれが最も重要視されるべきかが異なることをお伝えした。今回は、『働き方改革』におけるICTの役割と留意すべき点をお伝えしたい。そしてこれらは概ね、『働き方改革』以外の業務改革でもあてはまることである>>

『働き方改革』を強力に推進する手段としてICTの活用がよく挙げられる。ICTベンダーが大々的に宣伝しているため、小生と似たような懐疑的な人間になると、かえってその効能を疑いかねないかも知れない。しかし冷静に考えると、その省力化効果は既にかなりの程度実証されており、理屈で考えても納得の行くものが多い。

例えば、毎日大勢の社員が利用する業務アプリケーション(およびそのOS)が最新状態に維持されていることで、手作業もしくは旧式の業務アプリに比べてはるかに素早く、しかもミスなく処理されることに疑問の余地はないだろう。

また、社外にいながら、社内にいるときと同じようにモバイル端末で社内データベースにアクセスでき、業務アプリの処理を遠隔でできるようになった時の「これは便利だ!いちいち社に戻らなくてもいいんだ」という感激を覚えている方も多かろう。

もちろん、こうした省力化効効果や便利さを獲得するためには、システムの更新や増設および運営などにそれ相応のコストが掛かり、便利さと引き換えに情報漏洩や違法アクセスのリスクは高まるため、その分だけセキュリティ対策を進める必要があることは言うまでもない。つまり十分高い費用対効果が見込め、セキュリティ面でも安心できることは事前に確かめる必要がある。

それでも多くの場合、特に「効率向上(による長時間労働の是正、およびワーク・ライフ・バランスの改善)」が主たる狙いである場合には、ICTの費用対効果が高いことは小生のクライアントで観察できた事例からも十分推し量ることができる。

しかしそのためには幾つかの条件がある。先ほど触れたセキュリティ対策をしっかりすることもその一部だが、そうした諸点はICTベンダーの人が懇切丁寧に説明してくれるだろう。むしろ肝腎なことは、(システム導入のタイミングを遅らせたりすることになりかねないため)えてしてICTベンダーの人が教えてくれないものである。

その最大のポイントは「システム化は往々にして『固定化』と同義である」ということである。つまり一旦システム化してしまえば業務プロセスはそう簡単に変えられないということを念頭に置く必要があるのだ。

(注:継続的な業務改善を可能にするためのBPMという考え方に向いた業務プラットフォームも存在するが、今のところ基幹業務システムに全面的に適用できるものではない。そもそも現実的にBPM用のプラットフォームを利用している企業はごく少数派なので、大多数の企業にとっては「システム化は往々にして『固定化』と同義である」というのが現実である)。

例えば、新しい基幹システムの導入で業務プロセスを大幅刷新したのはいいが、その最新の業務プロセスが数年後にも「最新」であり続ける保証はないばかりか、基幹システムによっては少し変更するだけでも随分高額なカスタマイズ費用が掛かり、しかも変更内容次第ではベンダー保証がなくなってしまうことすらある。

逆に、全社に共通する業務に対して、一部の事業部が先行して新しい基幹システムで業務アプリケーションを作ってしまうと、残りの全事業部が業務アプリを更新するときに全社最適の共通標準化ができないかも知れない。こうしたことは特殊な例ではない。

また最近よくあるのは、RPAを導入し、何となく効果が大きそうだからと中途半端なタイミングでRPAの現場主導での適用を解禁してしまったことで、あとで厄介なことになる恐れもあるのだ。

例えば、全社に存在する業務プロセスを共通標準化してリエンジニアリングしようとしたら、多くの部署から「せっかくRPAでロボット化して、その業務の流れに慣れたところだからしばらく変えないでくれ」と言われる可能性すらあるのだ。

つまり、『働き方改革』の際にもICT化は実現の有効な手段ではあるが、「固定化」を促す側面もあるため、そのタイミングや手順はよほど考えないといけないということだ。

基本的な考え方としては、ICT化は業務改革の仕上げに向いている。標準化を進ませる方向に推進力が働き、後戻りもさせないという縛りにもなる。成果進捗具合を定量的に測定することもやりやすくなる。

(次回の記事で手順の問題を採り上げるが)手順的には『大きな改革』部分と『草の根改善』部分を切り分けるというのをしっかりとやって、『大きな改革』を済ませた後に仕上げとしてICT化を進めれば、無駄な後戻りや2重手間をしてしまう恐れは小さくなる。『草の根改善』については現場の工夫で、そしてRPAも利用してコツコツと進めればよい。

それに対し、同じ『働き方改革』でもテレワークの実現(およびそのためのシステム導入とセキュリティの強化)に関しては、上記に挙げたような手順の問題は少ないと考えられる。緊急性の高い(または期待効果の高い)部署を優先してパイロット事業所に指定して試行するなど着実に進めることで、後戻りや二重投資の問題はまず起きないはずだ。

むしろテレワークが有効な企業にとっては、今は大胆に進めることが後押しされる世情なのではないだろうか。